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プロローグ◆ギデオン視点
ある晴れた昼下がり。
銀色の髪をした小さな女の子と、赤毛の男の子が元気に庭を走り回っている。一定の距離を保って駆け回る二人の様子を眺めていると、隣に来た初老の男が口を開いた。
「良かったのかい?黙ったままで」
咎めるわけでも責めるわけでもない優しい口調。
ふっと息を吐いて、視線は外さないままに答えた。
「良いんですよ。新しい約束を交わしたので」
「………なるほどな」
「お義母さんは家に?」
「ああ。またクロエとジャム作りに精を出している」
「アプリコットですか。楽しみだ」
アッサム・グレイハウンドは顎髭を撫でて頷いた。
「クロエの指輪を見て、君のことを思い出したよ。あれは忘れているようだが、幼い頃に何度も語ってくれた秘密の友達が君だと知った時は胸が震えた」
「随分と昔の話です。彼女はもう覚えていない」
「許してやってくれ……辛いことが沢山あった」
「もう良いんです。本当に、気にしてはいません」
赤毛の男の子が女の子に追い付いて、二人は芝生に上に転がり込んだ。
すぐに起き上がった男の子を、次は女の子が追いかけ始める。グレイハウンド夫人が植えた花たちは大きく成長して、今では小さな花園のようになっていた。蜜を吸うために集まった白い蝶がパタパタと羽を振っている。
「ペルルシアの内部では反乱が起こったようだね。ホーンから受け取った新聞によると、先週反王権派が指揮するデモ隊が王宮に到達したらしい」
「そのようですね。アンシャンテの時代も終わりを迎えることでしょう……変わりゆく時代を誰も止められない」
「ここは変わらないで欲しいよ」
走り回る子供達を眺めてアッサムは目を細めた。
クロエと同じ碧眼が太陽の光を受けて光る。
「老人の勝手な戯言だが……君に作ってほしいと思っている。穏やかな愛と優しさに溢れた、新しい場所を」
「それは大層な計画ですね。僕の代で成し遂げられるかどうか、自信はありませんが」
「君とクロエなら出来るんじゃないか?人と魔族が共に生きる豊かな国を、是非とも築いてほしい」
応える代わりに、ひとつ頷いてみる。
その時ちょうど、背後で自分の名前を呼ぶ声がした。
振り返るとクロエが小鍋を片手にこっちへ手を振っている。すぐに「おかあさーん!」と小熊のような二人が走り寄ってその脚に抱き付いた。
間違っていなかったのだと、実感する。
手に入らなかった幸せが今此処にあるのだと。
中へ入ろうとアッサムに声を掛けて歩き出す。背中を押すように吹いた強い風が、クロエの頭に巻いた水色のスカーフを奪って空へ舞い上げた。届かないその布切れに伸ばす細い腕を取って、指先に口付ける。
「……っ、どうしたの…ギデオン?」
「考えていたんだ。一番大切な約束のことを」
不思議そうに首を傾げる妻の頬にキスを落とすと、子供たちが囃し立てるように騒いだ。
病めるときも、健やかなるときも。
この命が続く限りはどうか彼女と共に。
End.
◆ごあいさつ
ご愛読ありがとうございました。
スターなど送っていただき感謝です。
本編は完結です。日付が変わったらスター特典で五話ほど掲載しますが、ただのいやらしい話なので興味がある方だけどうぞ。
夏に向けて(もう夏ですが)ファンタジーのお話を書いていますが、婚約破棄もざまぁも無い死に戻りの話です。ポンコツの先生が奮闘します。
それとは別に、皇帝の夜伽をする話(夜伽続きな上にヒーローのビジュアルが被り気味ですみません)もあるので、明日から連載予定です。
ではでは!
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