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昔から雨は嫌いだった。
服は濡れるし、やりたいことの半分以上は制限されてしまう。
傘なんて差して歩いた日には片手が塞がって不便な事この上ない。
それに、コレは俺の経験則だが大抵の嫌な事は雨の日に起きることが多い。
中学の時好きだった女子に告白した時も、高校受験で第一志望に落ちた時も、親父が死んだ時だってそうだ。
大好きだった幼馴染に初めて彼氏が出来たと報告を貰った日ですら雨が降っていた気がする。
だから今日も、突然降り出したこの土砂降りのような雨に俺は半ばうんざりしていた。
バケツの水をひっくり返したような激しい雨は、携帯用の傘ではとても対応しきれそうにもない。
今日は雨が降るなんて一言も言って無かったのに。天気予報だって晴れマークしか付いていなかったはずなのに。
「あーもう……」
小走りで一気にマンションまで駆け抜けると、エントランスの入り口付近で見慣れた後ろ姿を見つけた。
白いシャツに濃紺のベスト。タータンチェックの短めスカート。カラスの濡れ羽のように艶やかな髪は肩まで延びて、雨に濡れた髪が頬や首筋に張り付いて先端から水滴を滴らせている。
俺がアイツを見間違えるはずはない。
「おい、美咲」
少し離れたところから声をかけると、幼馴染の彼女は恨めしそうに見上げていた視線をこちらに向けた。
「大ちゃん……っ」
「お前、何やってんだこんなとこ――っうわっ!?」
言葉は最後まで続かなかった。俺の顔を見るなり、いきなり彼女が抱き着いて来たからだ。
手に持っていた傘を仕舞う暇もなく、そのまま勢い余った彼女を受け止める形で尻餅をつく。
「おいっ! どうしたんだよ急に!?」
普段なら絶対しないような行動に面食らいつつ訊ねるが、返事の代わりに返ってきたのは嗚咽だった。
顔を伏せたまま、俺の首元に腕を回し泣きじゃくる彼女の様子は明らかに普通じゃない。
これじゃ俺が彼女を泣かせたみたいじゃないか。
と言うか、すれ違うマンションの住人達からの視線が痛すぎる。
何なんだ一体。
流石にいつまでもエントランスに居るわけにもいかず、仕方がないので俺は美咲の手を引いて自宅へと戻ることにした。
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