当て馬だって恋してる

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どれくらい時間が経っただろうか。すっかり温くなってしまったココアを新しい物に取り換えようかと立ち上がったタイミングで美咲がポツリと言った。 「大ちゃん。どうしよう……私、二股掛けられてるのかもしれない……」 雨音に掻き消されてしまいそうな程小さな声だったが、俺の耳にははっきりとそう聞こえた。 やっぱり、そんな事だろうとは思った。でも、「かも」という事はまだ確定では無いという事だろうか。 しかしどちらにせよ、あまり気持ちの良い話題ではない。 淹れたてのココアをぐるぐると掻き混ぜながら、ソファに戻り続きを促す。 「どういうことだよ?  何か根拠でもあるのか?」 「……実は最近、彼の様子がおかしいなって思うことがあって。電話しても全然出てくれないし、メッセージだって返信が来ないことが増えてきて……それに……」 「それに、なんだよ」 「今日の放課後、すっごく可愛い女の子と腕を組んで歩いてるの見ちゃったの」 美咲はそう言うび泣きそうな顔をして下を向いてしまう。 マグカップの縁を指でなぞりながら「今回は本気だったのにな……」 なんて小さく呟いてまた少し肩を震わせた。 「あー……」 そんな男さっさと自分からフッてしまえばいいのに。 そんな軽薄な男なんて辞めて俺にしとけよ。なんて、喉元まで出掛かった言葉をホットココアと一緒に飲み込んだ。 美咲が俺の事何とも思って無い事くらい知っている。 昔から側に居るだけの、ただの幼馴染だ。それ以上でも以下でもない。 俺達の関係はそんなものでしかないのだ。 だからこんな事を言ったところで美咲を困らせるだけだし、そもそもこんな台詞を口にしたところで、俺が美咲にとっての『特別な存在』になれるはずがない事は誰よりも俺自身が一番良く分かっている。
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