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守り守られる二人
「アレク様! シルヴァンが先に行きます。とどめを!」
「任せるが良い!」
迷宮の危機が去って早数ヶ月。
セレスティアとアレクシスは、明日ついに結婚式を迎える。そんなめでたい日の前日なはずなのだが、二人はこんな時までお忍びで迷宮に潜っていた。
魔獣の群れを一掃したアレクシスが剣を鞘に納める。
セレスティアはシルヴァンに辺りの気配を探らせている。
阿吽の呼吸の探索風景は、間違いなく頼もしいものではあるのだが……。
お付きのメイドのメイは、さすがに呆れ果てた眼差しを主人二人に向けて言う。
「旦那様、セレスティア様……。もうお帰りになりませんと。メイド長も執事も今頃カンカンですよ。明日に向けての準備などいくらでもありますのに、抜け出してくるなんて」
「まあ、そう目をつりあげないで頂戴、メイ。結婚式に気がかりを残して臨むのは良くないでしょう? これでしばらくは、わたくしたちが迷宮に出向く必要もなくなるわ」
「結婚式の後は少しでも二人でゆっくり過ごしたいからな。なんとか目を瞑ってくれ、メイ」
笑いながら釈明する主人二人に、メイは苦い笑いを返すのだった。
後片付けに立ち働くメイドを見ながら、セレスティアはアレクシスに言う。
「申し訳ありません。あなたまで迷宮にお付き合いさせてしまって」
「構わないよ。私の花嫁殿は無茶をするきらいがあるからな。一緒に狩りに来た方が私も安心できるというものだ」
微笑むアレクシスに目を向けて、セレスティアも満面の笑みを浮かべた。
「アレク様。わたくし、本当に幸せです。血まみれ聖女などと呼ばれていたわたくしが、あなたのそばに立たせて頂けて、まさか花嫁になれるなんて」
「その二つ名を考えた者たちは、自ら愚かさを露呈しているようなものだ。こんなに可愛らしくて素晴らしい女性のことを貶めるなど」
アレクシスが優しくセレスティアの髪を撫でる。
それを心から嬉しく感じながら、セレスティアは誓いの言葉を述べるように言った。
「……この先もずっとずっと、お守りいたしますね」
「私の台詞を取らないでくれ、セレスティア」
二人はお互いを見つめ合ってまた笑った。
まだ想いの全てが通じ合っているわけではない。 抱いている気持ちだって等しいとは限らない。
それでも、これから育んでいく絆はきっと何にも代えがたいものになるだろう。
そんな確かな予感が、二人の中にはあったのだった。
かくして『迷宮伯』と『守護の聖女』の結婚式は、領内がすっかり落ち着いた、あるよく晴れた日に執り行われた。
慎ましやかだが厳かに行われた式のあとに、披露宴としてガーデンパーティーが行われた。
招待客や野次馬の領民たちの前に姿を見せた新郎と新婦は、輝かんばかりに美しく幸せそうで、人々は惜しみなく祝福したと言う。
二人が王国きっての英雄としてますます名を馳せるようになるのは、もう少しあとの話だ――。
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