入道雲

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青く澄み渡った空に遠く入道雲が発生している。 あぁ、本格的な夏が始まったんだなと感じる。 自転車のスピードを上げれば涼しかった風も熱を含み、涼しさを全く感じない。 ただただ、暑いだけだ。 今日で高校も修了式を迎え明日からは夏休みが始まる。 ーー明日から会えなくなるんだなぁーー 高校2年生の夏休みは貴重だ。 来年の今頃は自分が決めた進路の事だけ考え、勉強に集中しなければならない。 遠くに見える入道雲に目をやる。 こうして見ると、夏らしく白い雲が連なった大きな雲は綺麗でとても見応えがあるが、あの雲の下の地域や、雲の中はいつか見た天空の城に行くために突入したアニメの様に、あちこちで雷が発生し、前も見えず大荒れでとても今感じている気持ちとはかけ離れた物だろうと思う。 入道雲=受験と重ねてしまいそうだ。 「おはよ!どうした?」 学校近くになったから、自転車を止めてボーッと遠くの入道雲を見ていたら、僕の肩をポンと軽く叩いて挨拶された。 「おはよ!あれ、笹本、自転車は?」 笹本は中学から一緒だが、同じクラスになったのはこの2年生からだ。 中学の時も住んでる所が反対方向で通学路被らないし、そんなに接点無いから、あまり話さないと思っていたら、同じ自転車通学と言う事で自転車置き場で毎日顔を合わす様になり、お互いの教室まで一緒に行くのが日課になっていた。 今は同じクラスだから、教室まで一緒に行くし、同じ委員になった事もあるので、かなり仲良くなっていると思う。 ……そう思ってるのは僕だけかもだけど……。 小学校からサッカーをしているらしく、中学でも高校でも主将となり、在校生だけでなく、外部からも注目を浴びている。 白いシャツの袖から伸びている腕は筋肉質でシャツが眩しく見える程、日焼けしている。 こんなに日焼けしていても、笑顔は爽やかで、コシはあるけど、触り心地の良さそうなサラサラの色素の抜けない黒い髪に同じ色の瞳が細められ、僕が女の子だったらときめいた事だろう。 ……いや、女の子じゃなくても、僕は密かに毎度ときめいていた。 カッコいいんだよぉぉぉぉ!!!! 心臓に悪いから、あまり笑顔を振りまかないでくれ!! 笑顔を向けられる度に僕はそう思ってしまう。 今は性について、かなり寛容になりつつあるけど、この気持ちはまだまだ世間的には認められる物ではないとしっかり胸に刻んでいるので、距離感を間違えない様に過ごしている。 「もうすぐ予鈴鳴るのに、自転車無いからちょっと散歩がてら迎えに行こうと思ったら、見つけた」 え、わざわざ僕を迎えに来てくれたの? 僕目線だからか、少し照れくさそうに見えるんだけど……ダメダメ、僕はたまに恋愛脳になるんだから、期待したらダメなんだ。 バレたら気持ち悪がられるし、今の関係が無くなってしまう。 「そうなんだ。僕の存在感があって良かったよ」 期待する気持ちを抑えつけながら、いつもの口調で話す。 「泉の存在感半端ないよ、俺、泉が休みの日寂しいもん」 またァァァ!!また、そんな期待値上げる事を言う!! あなたは友達多いでしょ?!笹本が休んでボッチになるのは僕の方です!! 心の中で顔真っ赤にして叫ぶ僕。 笹本 楓と鳴川 泉……笹本と僕の名前だ。 僕は笹本の事を上の名前で呼ぶが、笹本は僕の名前を下の名前で呼ぶ。 下の名前を呼ぶのは親しい人の証らしい。 そして、今の所、下の名前で呼ばれてる人は僕以外に居ない。 鳴川よりも泉の方が短いし、呼びやすいからかもしれないし、だからどうしたって話だけど、僕は自分の名前を呼ばれる度に舞い上がる気持ちを抑えなければならない。 「で、どうした?ボーッとしてたけど」 僕より頭一つ分大きい笹本が覗き込む様に、間近で僕を見つめる。 ち、近い!近い!!心臓に悪いからァァァ!! 「あ、空が綺麗だなって……夏だなぁって……」 焦りながらも質問に答える。 「本当だな、入道雲が出来てる。明日から夏休みだもんな〜。海行きて〜!!」 まだ日に焼けるつもりかと突っ込みたくなるけど、本心から出た言葉に聞こえて思わず笑ってしまう。 「なぁ、夏休みの予定は?」 突然、聞かれ驚くが 「んー、特に無いなぁ。お盆にお墓参りと親戚の集まりがある位?」 毎年の夏休みを思い浮かべながら答える。 「俺、午前中は部活あるけど、午後からはフリーだから遊ぼうぜ!遊べるのって今年だけだよな、去年誘うつもりだったのに、言えなくて……。 課題とか一緒にやるのも良くない?俺の家でも良いし、図書館でも良いし……」 ま、マジか……。これは夢かな。 「いいね!僕の家も親は仕事で居ないから空いてるよ!」 動揺を隠しながら、友達の自然のノリで話に乗る。 「お、泉の部屋見てみたい!最初は泉の家でいい?」 軽く乗っただけだったのに、僕の家決定か……部屋片付けないと…… 「いいよ!笹本、運動だけじゃなく、勉強も出来るから一緒に出来るのありがたいよ!僕の部屋をジャンジャン使ってくれ!」 「じゃあ、クラスのグループメッセージから個人に行っていい?また後で連絡しとくな!」 「うん、いいよ!僕も後でメッセージ送っとくね!」 もう長い付き合いになるのに、学校でしか話してないから、クラスや委員会のグループメッセージだけで事足りていた為、個人間でのやり取りは一切していなかった。 あ、あれ、夏休みに遊ぶってだけで、こんなに繋がれるもんなんだな……。 トントン拍子に夏休みの話から、ここまで一気に距離が近くなった事に呆然としながら、嬉しそうな笹本の顔を見る。 「やばい!もう予鈴鳴る!行こうぜ!!」 「わ!本当だ!急ごう!!」 時計を見た笹本が教えてくれ、僕も時計を見て慌てる。 僕は自転車には乗らず、笹本と走って学校へ入る。 自転車を置きながら、青い空を見上げる。 大きく連なる入道雲。 見ている分には良いんだ。青い空に白い大きな雲。 近づき過ぎると危険な夏の雲。 この景色が僕の夏休みを特別な物に変えてくれた。 笹本と過ごす奇跡の夏休みもこれが最初で最後と思う。 僕はあの雲を見ているだけで良いのだろうか……。 それとも、この夏休み、冒険する勇気を持つのだろうか……。 〜END〜
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