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十三人
川に着くと、皆で花火を始めた。
子供の頃に戻ったように、賑やかにふざけ合った。
しばらくして麻希は堤防の斜めになったコンクリートに座って休んでいる咲良の隣に腰掛けた。
「咲良ちゃん、疲れてない?」
「ありがとう。大丈夫よ」
咲良はお腹を撫でながらにっこり笑った。
「どうして私、あっくんのこと、忘れてたんだろ」
麻希は呟く。
「仲良かったのにねえ」
咲良はそう言うが、他人事な様子が気になった。昔の咲良はこんな感じの子じゃなかった。
「さっきさ、誰かがあっくんのこと裏切り者って言ってたよね? あれ、どう言う意味?」
それでも聞かずにはいられなかった。
自分がここを去ったあと、晶が亡くなる前に何があったのか気になった。
「それはね……。あっ!」
咲良は何か言いかけて立ち上がった。
「来た! 麻希ちゃん、行こう」
そう言うと、咲良は麻希の手を取り立たせる。
「来たって何が? 行くってどこへ?」
咲良に引っ張られるように川岸に近付くと、月明かりが照らしキラキラ光る川面を川上から、一艘の和舟が滑るようにこちら来るのが見えた。
「よかった。これで行ける」
「やっとだね」
「間に合ったね」
「嬉しい」
皆から喜びの言葉が漏れた。
「えっ? 何?」
麻希はわけがわからず、皆の恍惚とした顔を見る。
その間にも舟はゆっくりと麻希達の元に近付いてくる。
舟には船頭が乗り、巧みに竿を操っていた。半纏を羽織り、首に手拭いをかけ、菅笠を被っているので顔は見えない。
舟は麻希達の立つ川岸に横付けにされた。
「さあ、乗ろう」と皆が我先にと舟に乗り出した。咲良も本田に手を取られて乗り込む。
「さあ、麻希ちゃんも」
咲良が隣に空いた空間を、ここに乗れというように差し示した。
村上が舟の上から手を差し出す。
「え? でもどこへ行くの? これって何?」
麻希は動揺する。
「やっと行けるんだよ」
村上が笑顔で言う。
「十三人揃ったからね」
咲良も満面の笑みを浮かべている。
「行こう」「やっとだね」「さあ乗って」
皆が笑顔で口々に言う。
「えっ? 十三人って?」
わけがわからない麻希だったが、村上に手を掴まれ強引に舟に引っ張られた。
「えっ、ちょ、ちょっと」
その時──。
「待て! 麻希ちゃん、乗っちゃだめだ!」
堤防の上から大きな声がして、村上の動きがはっと止まる。
その間に麻希は村上の手を振り払う。
見上げると、剃髪し作務衣を着た若い男、昼間すれ違った若い僧侶が数珠を手に駆け下りてきた。
「晶だ」
「裏切り者だ」
「晶が来た」
船の上でそんな声が広がる。
「あっくん? えっ、あっくんは死んだんじゃ……」
「麻希ちゃん、離れて! 死んでるのはあいつらだ!」
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