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黒塗りの写真
「教えてやれよ」
誰かが言った。
「そうだよ。こうなったら話すべきだよ」
誰かも言った。
「何? 何があったの?」
麻希はわけがわからず村上や咲良の顔を見た。
そこで、村上が口を開いた。
「藤谷晶を覚えてるか?」
「ふじたに、あきら……? あっ! あっくん?」
今まで忘れていたのが嘘のように、麻希の中に晶の顔が蘇った。
「小学六年のお盆、風の強い日だった。あいつ、何を思ったのか、夏休みの学校に来て、体育倉庫に入り込んだ」
老朽化した校舎の電気系統がショートして火災になった。風が強く、火はすぐに校舎の隣の体育倉庫にも燃え広がった。晶は煙が入って来て気づいて外に出ようとした。けれども……。
「倉庫の引き戸の脇に立て掛けられていた竿が風で倒れてつっかえ棒になり、扉は開かなくなっていた」
「えっ? じゃあ……」
「あっくん、焼け死んだの」
咲良が続けた。
言葉にならなかった。
(あっくんが死んだ?)
麻希は茫然とした。
「ごめん。そんなつらい話はしたくなくて、写真、黒く塗った」
村上が答えた。
「シゲマキ、晶と仲良かっただろ?」
そうだ──。
麻希は思い出した。
夫婦漫才と言われたのは村上とじゃない、晶とだった。
軽口を言い合う程仲が良かった。
麻希の父の仕事に興味を持って、父の野鳥観察について行くこともあった。
(なぜ? 私は今まで、あっくんのこと忘れていたんだろ?)
「しかし村上、写真を黒塗りにするのは逆効果だぞ」
誰かが言った。
「麻希ちゃんに気付いてって言ってるようなもんだよ」
誰かも言った。
「ごめん」
村上が申し訳なさそうに麻希に謝った。
方法は間違っていたとはいえ、気持ちは伝わった。
「ううん。こっちこそ、気を遣わせてごめんね」
(では、今日、分校で見たのは……)
麻希は思い出す。
僧侶を先頭に皆が体育倉庫へ入って行ったのは、晶を供養するためだったのかもしれない。
晶の死と、晶を覚えていなかった自分に対してショックはあったが、皆に気を遣わせないように麻希は明るく振舞った。
「よし! 川で花火だ」
同窓会がお開きになり、皆で片づけを終えると誰かが言い出した。
二次会をする場所なんてないから、余った飲み物を保冷バッグに入れて、誰かが買ってきていた花火を光瀬川でやろうというのだ。
明日になれば、家の盆行事や配偶者の実家への帰省でもう集まれないという。別れ難かった麻希は皆と一緒に集会所を出た。
川へは歩いて十分位の距離だった。
皆でおしゃべりしながら歩いた。
「学校、だから建て替えられていたんだね」
麻希は洩らした。
昼間、分校で見たことを話した。若い僧侶と遺族らしい一団が弔いをしていたようだと……。
「晶は裏切り者だ」
それを聞いていた誰かが怒ったように言った。
「おいっ! やめろ!」
村上が止めた。
(裏切り者?)
皆、まだ何か隠しているように麻希には思えた。
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