みつせかわ

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みつせかわ

 晶は麻希の前に立つと、舟に向かって話しかける。 「僕達は一緒に行けない」  きっぱりした声だった。 「でも十二人では俺達、渡れない」  村上が抗議する。 「いや、十三人いるだろ」  そう言って、晶は咲良の方を見る。 「咲良ちゃんのお腹にいるじゃないか」 「そうだ、子供がいた」 「なんだ、そうか」 「十三人揃ってた」  舟の上で安堵の声が広がる。 「さあ、安心して成仏してくれ」  晶はそう言うと、お経を唱えだした。 「さよなら。晶」 「バイバイ。麻希ちゃん」  皆が笑顔で二人に別れを告げた。  静かに動き出した舟は、十二人を乗せ川を下っていく。  お経を唱える晶の隣で、麻希はただ茫然と舟を見送っていた。  お経が終わると晶が説明してくれた。  晶は昼間すれ違ったのが麻希と気付き、川に火の玉が見えたので、心配して来てくれたのだ。 「“三瀬川(みつせがわ)”は、死者が渡る三途の川の別名なんだ。漢字は漢数字の“三”だけどね。同じ読みだからか、この光瀬川もあの世に通じていると信じられている」    麻希は肯く。 「三途の川の渡し船の定員は三人だけど、ここでは十三人だ。江戸時代、飢饉の時に十三人の子供が死んでから、そう信じられるようになったらしい」  だから彼らは十三人に(こだわ)った。 「ただ、工事が完成して岸が嵩上げされたら、舟は着岸できなくなる」  彼らはなんとしてでも、今年舟に乗らなければならなかったのだ。 「小六のお盆、十二人は校庭で花火をするため暗くなるまで体育倉庫に隠れた。日直の先生が帰ったら外に出る計画だったらしい」  晶は火災の真相を語り始めた。 「あっくんは?」 「僕は寺の息子だろ? お盆は手伝いで忙しいから誘われなかった」  火事の状況は村上の話と同じで、十二人は体育倉庫に閉じ込められて焼死した。 「彼らは一人足りずに成仏できないと、十三人目の僕を毎年お盆に迎えにきた。僕は拒んで裏切り者って言われた」  集落で彼らを供養する地蔵を造り、晶は彼らを成仏させるためにも立派な僧になろうと修行に励んだ。 「僕を(あきら)めた彼らは、麻希ちゃんを道連れにしようとしたんだ」  裏切り者の写真を黒塗りにする。  子供が考えそうなことだった。彼らの心は十二歳のままなのかもしれない……。  舟は遠くなり、もう一人一人の顔はわからない。それでも麻希と晶はずっと舟を見送っていた。  舟からは、楽しそうな子供の笑い声が響いていた。 <了>    
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