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「今すぐ殺して下さい」
教室の窓際で止むことのない雨をぼんやりと見つめていると、急に入ってきた知らない男子生徒にそう言われた。
物騒なことを言う輩がいるものだ、けしからんと思ったが、顔はいたって穏やかで、今すぐ死にたい人間には見えなかった。雨音をかき消すほどの大きな声と存在感だ。
もちろん私はこう答えた。
「無理な相談ですね」
それはそうだろう。彼を殺した瞬間、私の人生は殺人の罪により終わりを迎える。
「そうでしょうね。でも責任はあなたにあるんです」
「まさか」
「そのまさかです」
「今日初めて会ったのにですか」
男子生徒は大きなため息をついた。
「人は自分が気づかないところで、大きな罪を犯しているものなんです」
「えっと……私が殺される側ですか?」
「いえ、僕です」
「罪を犯しているのは?」
「あなたです」
私は無になる。
「ちょっと……わかりませんね」
「そうでしょうか。得てして簡単なものですよ」
彼は不敵な笑みを浮かべたが、やはり死にたい人間には見えなかった。
「なぜ私なんでしょうか」
「わかりませんかね」
「わかりませんね。たまたまここにいたから?雨だから勉強して帰ろうと思ったんです。そのうち止むか、弱くなるかなと思って。いつもなら何人も勉強しているので、紛れるんですよね。でも今日はたまたま一人だった……から?その一人が私だったからでしょうか」
彼はふんふん、と真剣な様子で話を聞いていたが即座に返事した。
「それは違います。たまたまではありません。故意的にして必然です」
「必然……」
それは、私でなくてはならなかったということを意味していた。
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