今すぐ殺して下さい

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「そう、必然です」 「私なら殺してくれそうだと思ったのですか」 「殺してくれそうかどうかなど興味はありません。ただ、あなた以外にはありえないんです」 「はあ……」   だからその理由が知りたいのだが、なかなか答えにたどり着かない。 「つまり、どういうことでしょうか」 「心当たりがおありでない?」 「ないです」 「全く?」 「全くです」 「そうですか。残念です。実は僕、二番なんですよ」 「二番とは」  彼は首を横に振り、やれやれと眉を下げた。 「テストですよ。中間、期末、模試、何を受けても結果が二番なんです」  そこでようやく合点がいった。私は毎回一番。三年生になってからは一番以外は取ったことがなかった。そういうことか。 「一番になれないからですか」 「そうです」 「そんなことで死ぬ必要はないと思いますけど」 「そんなことと言いますが、それではあなたは一番を譲ってくれますか」  あなたにはわからないでしょうね、そんな細い目を眼鏡越しに向けてきた。 「……譲りませんけど」 「でしょう?どこかの政治家は言いましたよね。どうしても一番でなくてはいけないのですか、二番じゃダメなんですか、と」  私は彼の眼鏡の奥にある目を見た。レンズのせいで若干大きく見える瞳は、澄んでおり濃くて力強かった。 「そう、二番じゃダメなんです。一番でなくてはいけない、少なくとも僕の家族にとっては」 「殺してもらいたいほどにですか?」 「あなたに殺されなくても家族に殺されますから。どうせ殺されるなら一番の人間に殺されたいですね。そうすれば、家族も納得するでしょう。一番の人間に殺されたなら仕方ない、と」  私は疑問をもった。 「誰に殺されても家族はイヤだと思いますよ」 「ところが我が家はちょっと変わっているんです。僕が死んだことで悲しむことはなくとも、迷惑に思うことはあるかもしれませんね。人が一人死ぬと面倒が増えるので」  私はムッとした。 「私に面倒をかけるのはいいのですか?他人ですよ」 「そこですよ。だから一番の他人に殺されたいんです。家族は面倒ながらも、仕方ないことだと受け入れてくれるでしょう」 「私は受け入れられません」 「大丈夫です。迷惑をかけないよう考えました」  私はため息をつく。 「それって、内容を聞かないとダメですか?」 「一番を取り続けている責任があなたにはありますからね」 「私も一番を取り続けないと、家族に殺されるとしたら?そう考えたことはないですか」  彼の動きがはたと止まった。
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