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「あなたも一番でなければ家族に殺されるのですか」
「その可能性があるとは思わなかったのですか、とお聞きしているのです」
「確かに。非常に稀なことなので考えていませんでした」
彼はうーんと唸り声を上げ始めた。
「矛と盾ですね」
「矛と盾ではないですよ」
「違いますか」
「違いますね。矛盾はしていないです。お互い家族に殺される可能性があるとしたら、二番以下の人は殺されますから、あなたは殺されて私が生き残る、ということになります。何も矛盾はしていません」
ふんふんと彼はまたうなづいた。
「つまり僕は結局、あなたに殺していただかなければならないということになりますね」
「それがちょっとよくわからないですけど」
「シナリオは簡単です」
話を聞きたくないこちらの気持ちなどお構いなしに、彼はペラペラと話し始めた。
「僕は遺書を残します。二番の人生はうんざりだと。屋上から飛び降りるので、後ろから押してほしいのです」
「いやいや、ちょっと待って下さい。飛び降りは一人でできますよね?私が殺す必要ありますか?」
「ありますよ。僕は一人で飛び降りられないので」
「なぜですか」
彼はぽっと頰を赤らめて恥ずかしそうに答えた。
「……怖いじゃないですか」
彼にしてはずいぶん控えめな声だったので、ちょっとかわいく思えた。
「怖い?」
「はい、高いところは怖いので。ちょっと押して、手を貸していただきたいのです」
「あー、なるほど……お断りいたしますね」
私がにっこりと微笑むと、彼は少し不機嫌な顔になった。
「断る理由は何ですか?一体何がご不満なんです?」
「そりゃあ不満ですよ。誰かに見られたら一貫の終わりですからね。私はただの人殺しになります」
「遺書があるから大丈夫です。あなたへの感謝、学校への感謝、家族への感謝を書きますから。あなたは僕を助けたかったが間に合わなかった、とでも何とでも言えばいい」
私は面倒なことに巻き込まれたものだと思った。面倒がイヤで常に一番を取っているだけなのに。
いつも一番を取っている人間が急に三十番を取れば心配される。一番が二番になっても家族には心配される。全て、何もかもがイヤで面倒だから一番を取っているだけだった。
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