1人が本棚に入れています
本棚に追加
「それなら……とは」
「家族を殺す手伝いならします。でもあなたを殺すことはできません」
「……家族に死んでほしいわけではありません」
「その体でよくそんなこと言えますね。シャツを捲ってみて下さい」
私が彼の腹部辺りに目線を下げると、今度は彼の体の周りの空気だけではなく、彼自身も凍りついた。
「……初対面だと言いませんでしたか」
「対面するのは初めてですし、先ほどまでは本当に知らない人だと思っていました」
「思っていた……とは」
「思い出したんですよ、あなたの体を」
「知らない人の体を見るのですか」
私は少し考えてからこう答えた。
「興味があれば見ますね」
「興味……ですか」
「後ろを向いてくれても構いませんよ。私がシャツを捲って背中を見ます。前でも後ろでも結果は同じなので」
「なぜ知ってるんです」
「あなたは最初から私を知っていましたよね?私が最初からあなたを知っている、という可能性を考えなかったのですか」
彼は真顔で答えた。
「もちろん考えていましたが、まさか興味をもたれているとまでは思いませんでした」
「体育の授業が一緒なことは?」
「もちろん知っていました」
「見られているという可能性は?」
「いつも人がいなくなったころに隅っこで着替えていましたし、シャツを着ていたらそうわからないでしょう?」
私はふんふん、とうなづきながら耳を傾けた。
「確かにわかりません。しかし、興味をもつには十分な理由です。いつもなぜ着替えが遅いのか、なぜ隅っこにいるのか……後はこっそり見ていればいいだけの話ですから」
「……体罰は人を殺していい理由になりますか」
「もちろんなりません」
「ではなぜ家族を殺す手助けはすると」
「先ほど言いましたよね。あなたを殺したくないからです。殺人犯にもなりたくはありません」
彼はスクールバッグの中から味気ない茶封筒を取り出した。
最初のコメントを投稿しよう!