今すぐ殺して下さい

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「それなら……とは」 「家族を殺す手伝いならします。でもあなたを殺すことはできません」 「……家族に死んでほしいわけではありません」 「その体でよくそんなこと言えますね。シャツを捲ってみて下さい」  私が彼の腹部辺りに目線を下げると、今度は彼の体の周りの空気だけではなく、彼自身も凍りついた。 「……初対面だと言いませんでしたか」 「対面するのは初めてですし、先ほどまでは本当に知らない人だと思っていました」 「思っていた……とは」 「思い出したんですよ、あなたの体を」 「知らない人の体を見るのですか」  私は少し考えてからこう答えた。 「興味があれば見ますね」 「興味……ですか」 「後ろを向いてくれても構いませんよ。私がシャツを捲って背中を見ます。前でも後ろでも結果は同じなので」 「なぜ知ってるんです」 「あなたは最初から私を知っていましたよね?私が最初からあなたを知っている、という可能性を考えなかったのですか」  彼は真顔で答えた。 「もちろん考えていましたが、まさか興味をもたれているとまでは思いませんでした」 「体育の授業が一緒なことは?」 「もちろん知っていました」 「見られているという可能性は?」 「いつも人がいなくなったころに隅っこで着替えていましたし、シャツを着ていたらそうわからないでしょう?」  私はふんふん、とうなづきながら耳を傾けた。 「確かにわかりません。しかし、興味をもつには十分な理由です。いつもなぜ着替えが遅いのか、なぜ隅っこにいるのか……後はこっそり見ていればいいだけの話ですから」 「……体罰は人を殺していい理由になりますか」 「もちろんなりません」 「ではなぜ家族を殺す手助けはすると」 「先ほど言いましたよね。あなたを殺したくないからです。殺人犯にもなりたくはありません」  彼はスクールバッグの中から味気ない茶封筒を取り出した。
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