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俺は広場の中央に向かい、それと間合いを取った上で声をかける。
「……貴様が魔王か?」
「いかにも。そう呼ばれている」
「やはり、そうか。ところで魔王よ、なぜこんな所に来た?」
「それは、勇者である貴様を抹殺するためだ。これ以上野放しにすると危険だと思ったのでな」
俺を殺すために自ら出向いたというのか?
魔王って、広大かつ禍々しい居城で、ふんぞり返りながら待ち構えているものではなかったのかよ!
「さて、おしゃべりはここまでだ」
そう言いながら、魔王は腰に携えている剣を引き抜く。長大な両刃の剣だ。
「死ね!」
魔王は剣を両手で持ちながら、こちらに向かって突進し始める。
水しぶきがこちらに飛んでくる。
魔王が水溜まりを踏み抜いたのだ。それも、勢いよく。
魔王は水溜まりに吸い込まれ、消えてしまった。
「え?」
水溜まりを覗き込むも、魔王が再び姿を現す様子は見られない。
人も魔物も吸い込む、謎の水溜まり。水溜まりに限らず、湿原や池、沼、川等もそうだが……
魔王の仕業ではなかったのか?
そんなことを考えていると、耳に歓喜の声が入ってきた。
「さすがだ!」
「さすがは勇者様!」
「魔王は死んだ! これからは、怯えながら暮らさなくてもいいんだ!」
見回すと、喜びの表情を浮かべた人々が、万歳しながら、こちらに近づいて来る。
ぴちゃっ。ぱちゃっ。
水溜まりを踏んだ者達が、次々と吸い込まれて消えていく。
小さく浅い水溜まりを踏んでそうなっているので、石畳に吸い込まれているようにしか見えなかった。
それでも、水溜まりを踏まずに俺の所まで辿り着いた人々はいる。
俺は彼らに胴上げされ、祝福を受けた。
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