水溜まりの罠

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水溜まりの罠

 ここは湿原地帯。辺りには背の高い草が生い茂り、大小の池がたくさんある。ここから少し離れた所には、川もあった。  生命があふれていそうな場所だが、ここは危険地帯でもある。  危険な生き物や魔物が、多数潜んでいるが、それだけではない。  池や川、そして、ほとんど泥沼といってもいい湿原そのものが危険なのだ。  一体どういう原理なのかは知らないが、これらに足を踏み入れたが最後、吸い込まれるようにして落ちてしまうのだ。  落ちた者がどうなったのかは知らない。なぜなら、その後、姿を現したことが一度もないからだ。  落ちた者は死んでしまうと、もっぱらの(うわさ)だ。  そういうわけで、俺は今、木道を歩いている。おそらく先人が築き上げたのだろう。ありがたいことだ。 「ん?」  向こうの方に何かがいるぞ。  人のように見えるが、背丈は小さい。  一瞬、子供かと思ったが、そうではないようだ。  顔はしわくちゃで、目はやたらと大きくて鋭い。鼻は鉤のように曲がっていて、耳は尖っている。肌の色は異様なまでにくすんでいて、生きている人間のものには見えない。  おそらく、ゴブリンの類だろう。大きくはないが、武器として扱いやすそうな棍棒(こんぼう)を手にしている。  こちらに気付いたのか、奴がこちらに向かって突進してきた。  だが、奴がこちらに辿(たど)り着くことはなかった。  奴と俺の間に木道がまっすぐ続いているわけではない。  奴が俺の所に辿り着くためには、迂回して木道の上を移動しなければならなかった。  だが、それにもかかわらず、奴はまっすぐ突進してきた。  木道を踏み外した奴は、そのまま湿原に足を踏み入れ、そのまま湿原に吸い込まれるようにして消えてしまった。 「なんだったんだ、あいつは……」
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