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きみが思うよりも
冬の訪れを肌身で感じるようになった11月、今日も恙無く仕事を終えた安堵から休憩を取っていたウーヴェの元に大学以来の友人がひょっこりと顔を見せた。
「久し振りだな、ルッツ」
満面の笑みで親友を出迎えるが、その顔に陰りを見いだして小首を傾げる。
「どうした?」
「……少し、話を聞いて欲しくてね」
仕事終わりの精神科医に言うべきでは無いと思うんだけどと、苦い笑みを湛える整った唇を見つめたウーヴェは、己が腰を下ろしているソファの隣をポンと叩き、ここに座れと合図を送る。
「どうした?」
言えるのなら言えば良いが無理ならリアが作ってくれたビスケットを食べないかとテーブルの上の皿を指し示すと、ひとつ摘まんで遠慮がちに口に運ぶ。
「美味しいね」
「リアが喜ぶな」
今は席を外している彼女が喜ぶと笑うウーヴェに友人、マウリッツも笑みを浮かべるが、美味しいだの好きだのは簡単に言えるのに、どうして彼には好きだの愛しているだのが言えないんだろうと続けたため、彼の訪問理由を察したウーヴェが友に向き直るようにチェアの上で姿勢を入れ替える。
「言えないのか?」
「うん……何だろうね、彼には言えないんだよね」
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