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2024年6月1〜6.29
【Bittere Zuckersüßigkeit.ー苦い砂糖菓子ー】
食後のコーヒータイムをリビングのソファではなく、今夜は半月が綺麗に光っているからという理由で庭のハイバックチェアに腰掛けて過ごしていた慶一朗は、何かを思い出したように立ち上がった後、キッチンに戻っていった伴侶のリアムが戻ってくるのを月から戻した視線で追いかけ、キャンプに持って行くチェアではなく慶一朗の真横の地面に腰を下ろした後、ごそごそと小さな袋を弄りだしたことに目を瞬かせる。
「リアム?」
「……これ、今日職場のティーブレイクの時に貰った」
スタッフのひとりであるミリーがくれたと、いつもならばその顔に浮かんでいるのが当たり前の笑みではなく、何処か不安を覚えているような顔で見上げられて小首を傾げ、己に向けられる掌の上のものを見て今度は目を見張ってしまう。
その小さな巾着包みの中が何であるのかを慶一朗は理解出来なかったが、小洒落たデザインのラベルに描かれているものが今では殆ど目にしない、遠い昔図形として覚えた為に大層苦労したことのある漢字とひらがなだと気付いて無意識に息を呑んでしまう。
「帰ってきてケイさんにもって思ったけど、これ、日本のものだよな」
だったらそんなものをあなたにプレゼントするなんて出来ないと、己の掌の上で行き場を無くしたような透明の袋に収まる淡い紫や青に色付くそれらが有るか無しかの風に揺れ、リアムのいつもは楽しそうに上がっている眉尻や口角を下げてしまう。
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