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己のルーツのひとつがある日本だったが、日本にまつわる事象を見聞きするだけで腹の奥底に得体の知れない何かがムクムクと頭を擡げてしまう精神状態に陥ることが多い慶一朗だったが、今久し振りに目の当たりにした漢字とひらがなを見下ろした時、以前のような脳味噌が沸騰したような熱も腹の底が凍り付きそうな冷たさを纏った怒りも覚えることが無いことに気付き、一体いつ己は己の過去を克服したのかと呆然としてしまう。
「……ごめん、ケイさん」
あなたの事を思えば持って帰ってくるべきでは無かったと、己の過去の傷を知った上で抱きしめ癒やしてくれる男の顔に悲哀が浮かんでいることが日本に関するものを目にした以上の衝撃を与えてきたことに気付き、緩く首を左右に振った後、所在なげにリアムの掌に載っている袋を手に取る。
「……正直、日本のものを見ても今は前ほど腹が立たなくなった」
それよりもお前にそんな顔をさせてしまうことの方が腹立たしいと、リアムの掌から取り上げた透明の袋を顔の高さに掲げると、泣き笑いの顔で頷かれてにやりと笑みを浮かべる。
「……ふぅん、砂糖菓子なんだな」
「そうなのか?」
「ああ……へえ、紫陽花だそうだ」
紫陽花という花をイメージした砂糖菓子だそうだと、裏に貼られているラベルの文字から読み取った情報を伝えると、リアムが紫陽花とオウム返しに呟き、リビングに戻ろうとハイバックチェアから立ち上がると同時にリアムに片手を差し出して同じように立ち上がらせる。
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