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見下ろす顔にいつもの笑みが浮かんだことが嬉しくて、大仰な言葉に同じく芝居掛かった態度で返事をした慶一朗だったが、そんな芝居がかった態度をいつまでも取っていられるはずも無く、小さく吹き出した後、もう一つ砂糖菓子を取り出してリアムの口に宛がうと吸い込まれるように口内に消えていく。
「……うん、甘いな」
「そうか、それは良かったな」
「うん」
リアムが職場から持ち帰った砂糖菓子が二人の間に微妙な空気を生み出すが、そんな小さな菓子ひとつで崩れてしまうような関係を築いていないことに微かな自負を覚えている二人が互いの目を見つめた後、どちらも笑みを浮かべてしまう。
「……このまま食うのもあれだから、紅茶に入れると美味いかな」
「明日職場で試してみればどうだ?」
「うん、そうしよう」
だから残しておいてくれと笑うリアムに頷きつつ広い胸板に頬を宛がうと、癖になっているからか途端に睡魔に襲われてしまいそうになる。
「……少し、寝る」
「分かった」
お前を本当のクッションにしてしまうが許せと笑み混じりに命令すると、気にするなと己の薄っぺらいものとは比べられない寛容さを内包する男の優しい囁きが耳に流れ込み、その声の心地よい重さに一時の眠りの底へと追いやられてしまうのだった。
さっきまで二人が見上げていた半月が邪魔をしないようにか、流れてきた雲に顔を隠したことを、リビングに入ったために二人は気付くことは無いのだった。
ー24.6.1 「紫陽花」「寛容」(リアムと慶一朗)ー
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