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玲は怪訝そうに言う。滝は正確には忘れてなどいない。玲の言う通り、滝が所属しているチームのボスの命令で玲を捕まえた。それは玲というより彼女の背後にいる黒の王様を誘き出すためであり、彼女に危害を加えることはなかった。
その際に滝ともう一人が監視兼お世話という形になり、結果親切にしたというだけ。それもほぼもう一人がやり、滝は会話すらしてなかったが、どうやら玲には滝も親切にしたという認識になっているらしい。
とんだ迷惑な勘違いだと滝は内心舌打ちした。表情の変化は出さずに、玲を無視して前を通り過ぎる。
「あ、おい!どこ行くんだよ!」
「お前が自分に構う理由なんかないだろ」
滝はこれ以上関わりたくなかった。だから冷たく言い放ったが、それでも玲は食い下がってくる。
「はぁ?ちょっと何拗ねてんだか知らないけど……あ、もしかしてアレか?あの時のこと気にしてんのか?」
“あの時”とはつまり以前拉致した時のことだろうと滝は思った。
「別に気にしてない」
「いやいや絶対気にした。なんだおまえ、クールそうに見えて案外優しいところあんじゃん」
「っ……」
滝は胸が締め付けられた。本当に優しいのならば、“あの子”はあんな風にはならなかった……とその痛みを振り払うように玲を無視して立ち去った。
滝が気にしていたのは玲を拉致したことではない。もちろんその後の親切にしたという勘違いでもない。
滝は玲と必要以上に関わりたくないだけなのだ。関わるたびに、一番大事だった少女の顔がチラつく。それはまるで、あの日の苦しみを忘れるなというあの子からの呪いのような気がしたからだ。
一番近くにいたはずなのに、少女の苦悩に気づけなかった愚かな自分への戒め。
***
「……」
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