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滝は一人で河原を歩いていた。日が沈みかけ、あたりを橙色に染めていた。あの日のことを思い出してしまい、胸の痛みが増す。
「これは……自分への罰なんだ」
滝は自分に言い聞かせるように呟く。
少女の両親は不仲だった。
だから家に帰りたくないという少女に滝は寄り添った。
それでも子どもができることなど限られていて、夜には家に帰すしか滝にはできなかった。
「また、明日な」
「……うん」
そんなやりとりを何度繰り返しただろうか。
まだ10歳の子どもで、知恵も力も足りない滝は言葉でしか少女に寄り添えない。
それが続いたある日。滝は少女に言われる。
「一緒にどこか遠くへ行こう」と。
差し出される少女の手は震えていた。
滝は、その手を取れなかった。
怖かったのだ。
少女の手を取って、その全てを背負うことになる未来が。
そんな滝を見て少女は眉を下げて微笑む。
「冗談だよごめんね」と。
滝は愚かにもそれを信じた。否、信じるしかなかった。
その日の夜、少女は自殺未遂をした。
風呂場で手首を切っていたのを母親が発見した。環境がよくないと、親は離婚して少女は母親と遠くの祖父母の家にいくことになった。
滝は、別れの挨拶には行けなかった。
自分があの時手を取れば、あの子は自分を傷つけることなどしなかったはずだと、己を責めて、少女への贖罪のように今も尚、後悔し続けている。
そして結論づけた。
もう誰とも深くは関わらない。こんな自分が関われば、また何かを間違える。
その時に相手がどうなるのか……そう思うだけで、滝は苦しかった。
その日からずっと、滝の心は晴れない。雨が涙のように降り続け、決して忘れるなと脳に警鐘を響せ続ける。
***
「あ、いた。おい滝!」
「……」
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