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ーー強い。いや、強すぎる。その時思ったことはこれだった。そして改めて実感する。目の前に立っている男の背中がとても大きく見えたから……。だから思わず呟くように名前を呼んでいた。
「た、たき……」
しかし、その声は最後まで続かなかった。なぜなら滝が玲の手を引っ張ったからだ。驚いて顔を上げると滝と目が合う。
「……え」
「こっちだ。逃げるぞ」
滝はそれだけ言うと玲の手を掴んだまま走った。
もう何がなんだか分からず玲の思考回路はショート寸前だったが、とりあえず引かれるままについていくことにした。
***
なんとか撒いたようで二人は川沿いの道を並んで歩いていた。もう手は掴まれていないが、なんとなく離れがたくて玲はそのまま手を繋いでいる感覚で隣を歩いていた。しかし沈黙に耐えきれず口を開く。
「その……さっきはありがとな。助けてくれて」
「……」
滝は返事をしない。玲は呆れたが、その時彼の頬に擦り傷があることに気がつく。
「おま……もしかして怪我してる?」
玲が指摘すると滝は目をそらした。玲はそれを見て、これは当たりだなと思った。
「……私を助けたからか」
「関係ないだろ」
「関係ないって、そんなわけないじゃん!手当てするからな!」
玲はいつになく大きな声を出してしまった。その声の大きさに今度は滝が驚く番だった。しかしすぐに冷静さを取り戻して言う。
「お前には何も求めてない。構うなと言ったはずだ」
「っ……」
その言葉に玲は一瞬たじろぐが、ふうっと息を吐き自分のハンカチを取り出す。そして滝の頰についた血を拭った。
「……やめろ。もう、関わるな」
「いやだね、私のせいで怪我した傷くらい手当させろ」
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