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引かない玲。滝も譲らない。傍目から見たら怪我を手当する少女とそれに寄り添う不良のように見えるだろう。まるで小説の1ページのようなシーン。しかし、当の本人達はだんまりだ。
「……」
「…………」
それからは沈黙の時間。だが、不思議なことに2人はその無言の時間が苦痛ではなかった。むしろ心地よささえ感じていた。そんな時間を過ごしていると滝がポツリと呟いた。それはとても小さな声だったが、玲にははっきりと聞こえた。
「……お前は」
“なんだ”と聞き返す前に、滝はまた呟くように言葉を発する。
「……お前は……どうしていつも自分に関わろうとするんだ?」
その問いに玲は驚いたがすぐに答えた。
「そんなの決まってんじゃん。おまえを放っておけないからだ」
玲の声は凛としていた。
「関わるなとかいいながら、自分は人のことを助けてるし。なんていうか、人と深く繋がることを怯えているよな、滝って」
玲は真っ直ぐに滝を見つめる。
「滝が何に怯えてるのか知らない。でも私は滝と関わりたいから、離れないし、こうやってしつこくする」
滝は玲の言葉に反論しなかった。彼はただ静かにそれを受け入れていた。
そんな様子を見て、玲もそれ以上何も言わずにただ黙って傷口にハンカチを優しく押し当てるのだったーー。
玲の行動に滝の心の雨がざわつく。ずっとずっと降り続けているそれが晴れることは未だ決してない。
滝は玲を見つめる。何度拒否をしても自分に付き纏う彼女。その行動が、かつての少女と重なる。
何度も助けのサインを出して、いざ思い切って唱えた言葉を拒絶された少女。滝の心に永遠に残る後悔の源。
自分が隣にいなければ、少女の行動は違っていたのかと思うと、怖くて滝は仕方がない。自分が関わることによって、起きる未来に苦しくなる。
「おい、大丈夫か?」
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