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雨上がりの景色
雨上がりとは、文字通り雨が上がった直後のこと。
独特な湿った空気、雲の隙間に見える太陽。
雨上がりとは、それらを連想させる。
しかし、ある一人の男はこの言葉とは無縁なほど、常に雨にうたれていた。
体ではない、心がだ。
滝という男は坊主頭にピアスだらけのまさにヤンキーのような風貌だった。その見た目とは裏腹に硬派で実直で寡黙な、19歳にはとてもみえない男だった。
そんな男は仲間といる時も常にクールで、あまりベタベタとした、深いやり取りはしない。
彼が人に対して一歩引いてるのには理由がある。
それは彼の後悔と自責の念から。
滝の心の中は常に雨。それは決して忘れてはならない過去があるからだ。
もう10年前の話だ。滝には大事な少女がいた。
その子と一緒にいるのは楽しく、幼いながらにも笑顔を守りたくて、長い時を共に過ごした。
いつまでも消えることはない。その子のことが、滝の心に今でも棲みついている。
***
「あ、おまえ……確か、滝だったよな?」
ある日、街を歩いているとすれ違いざまに声を掛けられる。
「……」
滝は声の主を確かめるため、振り返るが、顔を見た途端眉根を寄せた。その顔が語るのは“最悪”の一言。彼女の名前は玲。滝の2つ年下の少女。正直、滝は玲に会いたくはなかった。
「は?なんだよ急に睨んで……ほら、前にボスの命令だとかで私を拉致って、なんやかんや親切にしてくれたじゃん」
途中物騒なワードが入ったが、当の本人はケロッとしていた。
「……覚えてないな」
「え、ついこないだのことだぞ?おまえだってバトってたじゃん。あれ忘れるとかある?」
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