離縁できるまで、あと六日ですわ旦那様。②

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 あ。そうか。  ドミニク様は幼い頃から始祖返りしていたわけでもなんでもない。三年前、初夜の日に突然覚醒した。見慣れない異形の姿に自分ですら受け入れるのに時間がかかったのだもの、私に話すかだって悩むわ。覚醒してから落ち着くまで、そして私への対処に悩んでいる間に呪われてしまって……言い出すキッカケがずっともてないまま、ここまで来てしまったのね。  思えば結婚式は表情が乏しかったし、口数は少なかったけれど優しかったのだ。それにオーケシュトレーム公爵家の使用人たちは、みないい人たちばかりだったわ。私たちは見事に空回りしていたのね。 「ドミニク様。その……頬に……触れてもいいですか?」 「この肌を醜いと思ってもしょうが──え、え!?」 「触れてもいいですか?」  ここぞとばかりの距離を詰めた。その勢いに負けて、ドミニク様は珍しくポカーンとしている。まだ情報処理が追いついてないのだわ。ここは畳み掛けるのが一番! 「ド・ミ・ニ・ク・様?」 「え、あ、うん? うんん??」  もう了承を得たということにして、ピタッと頬に触れた。少しひんやりするが感触は思ったよりも柔らかい。尻尾にもちょっと触れてみたら犬のように尻尾がブンブンと揺れて可愛い。そして尻尾も思ったよりも柔らかい。すでにドミニク様は顔を赤くして固まっている。  心の声は悲鳴しか聞こえないので、放置。  うん。手で触れてわかったことは、ビジュアルだけでも私のドストライクなのに、モチモチな感触が最高すぎる。今なら妻という肩書を全面に悪用──いや合法的にハグしてもいいのでは?  前世では非モテだったし、今世でも異性にギュッとされたことがなかったもの!   ドミニク様的には触れられて、嫌には──。 【つ、つ、つ、妻が、私に、この姿で触れ、触れている!? こ、怖がられていない??? え、は? 都合が良すぎる……! ああ、もうずっとこのまま触れていて欲しい】  うん、大丈夫そうだわ!  この時の私はドミニク様に拒絶されなかったのが嬉しくて、ついつい気が大きくなっていた。普段なら自分から抱きつくなんてしなかっただろう。 「えい」 「!?」  思いのほか勢いよく抱きついたため、ドミニク様を押し倒してしまった。文系とはいえ肩はがっしりしているし、騎士のように胸板も厚い。  ハグしたら思いのほかいい匂いがする。ミントのような清涼感のある香りだわ。 【*あ%なっ、&%@*€8%◆あ◇⌘⇒〜〜〜!?】  うん、言語化すらしなくったわ。これで少しは表情が変わったかと思ったけれども、鉄面皮は健在! もはや仮面でも瞬間接着剤でくっ付けているかのようだわ。  あら、でも心臓の鼓動が速いわ。…………なんだか私もドキドキしてきた! えっとこの押し倒している状況もアレよね!? こんな姿を使用人の誰かに見られでもしたら──。 「お茶のお代わりを──おや」 「「!?」」  紅茶のおかわりを、と気を利かせたロータスが佇んでいた。私とドミニク様を交互に見て、テーブルにティーポットを置いたのち無言で去っていった。  いや小走りだった気がする。速っ!? 「──って、ロータス!」 「今夜はご馳走ですね! 心得ております!」 「ちがーう!」  手を伸ばして追いかけようとしたが、ドミニク様によって阻まれた。
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