離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

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 旦那様は驚くほど目を丸くして、カップを傾けてテーブルに珈琲をぶちまけていた。しかしそんなことに目もくれず私を見返す。  旦那様と目があったのは、いつぶりかしら。美しいプラチナの長い髪、銀縁の眼鏡、瞳は鋭くも美しいエメラルドグリーン色で、端整な顔立ちなのだが、無表情だと恐ろしく見える。狙われた獲物の気分だわ。  肌を刺すような威圧に耐え、今までの鬱憤を口にする。 「週末は屋敷に戻らず、娼館に足繁く通う女性がいるようですし、後妻はその方を一度貴族の養子にして結婚すれば角も立ちませんでしょう」 「…………」  ここまで言っても何も言わないなんて……。会話する気も起きないってことよね。でも切り出した以上、覚悟を決めるのよ、私! 「旦那様がなんと言おうと、私はパティシエールとして菓子専門店を出します。ずっと夢だったのですから、それを邪魔する旦那様──ドミニク様は、私の敵ですわ! 離婚調停で揉めようと絶対に、私は離縁してみせますから!」  もう最後はヤケクソで、言い切って部屋を出た。旦那様は固まったままで、席を立とうとする動作も見せず、私を呼び止めることなどしなかった。ホッとしたのが半分で、残りは落胆や悲しみや言い表せない感情でいっぱいになる。  でもこの答えが現実なのだと受け止めて、涙で視界が歪んだけれど意地でも泣かなかった。  白い結婚。  百年ほど前から教会が離縁条件を改定させた。  その条件は、結婚して三年以上、夫婦の契りがなく子供ができなかった場合に認められる。  今までこの国で離縁者が少なかったのは、神獣の血を色濃く受け継いだ番婚制度を取り入れていたからだ。  貴族は基本的に政略結婚だが、幼少期に親同士で決める前に国中の幼い男女を集めて遊ばせる。そこで当人同士が早々に婚約者──つまりは伴侶を見つけ出していた。番紋を刻むことで伴侶との絆を深め合い、仲睦まじい夫婦になるとか。
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