離縁できるまで、あと五日ですわ旦那様。

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「……ふ、フランカ」 「私にとってその一点は妥協できませんもの。でもこれは私の我が儘で、貴族らしい考えでも、公爵夫人としての振る舞いとしても失格なのは分かっていますわ。それでも……私は自分の夢を捨てられません」 「フランカ。……君の望みなら何でも叶えたい。でも……竜人は番となる伴侶が見知らぬ誰かと話しているだけでも殺意が沸くというのに、何処の誰とも知らない男に伴侶の菓子を提供するなど……。知り合いのいるお茶会ならまだしも……看過できない」  尻尾が垂れ下がっているドミニク様の姿はお労しいほど、悲しみと葛藤に悩まされていた。不覚にもキュンとしてしまい、危うく助け船を出しそうになった。危ない、危ない。なんて巧妙な罠かしら。  ドミニク様と会話してみて、悪感情はないし、むしろ意外な一面もあって──ありすぎて重苦しい愛情にドキドキもしたし、好かれていたことも嬉しかった。この三年、色々とおざなりにされたのはショックだったし、凹んだ時もあるけれどドミニク様にも事情があったからと、その部分は呑み込むことはできた。  でもパティシエールはね、呑み込めなかったの。だって私の原動力で、夢だったんだもの! 「……やっぱり、平行線ですわね」 「──っ、フランカ」  ドミニク様は私を逃すまいと手を伸ばすが、その手を私は掴んで阻止した。 「今日のお話は、ここまでにしましょう」 「駄目だ。そうしたら君は──」 「勝手にいなくなりませんよ。昨日は色々なことがあったでしょう。幸いにも白い結婚三年目の記念日当日まで、まだ時間がありますわ」 「フランカ」 「二、三日の間に、お互いの妥協点を見つけてみましょう」  ドミニク様の手を引いて自分から抱きつく。数日前とは違う、という意味だったのだけれど、少しは伝わったかしら?  あっという間に私を腕の中に包み込んでしまう。もう、これじゃあ、席も立てないし、夫の頬にキスもできないわ。 「フランカ、愛している」 「わ、私もドミニク様のことが嫌いじゃないし、惹かれているわ」 「ありがとう。……私も君が傍にいてくれるように考えるよ」  コツンと額を合わせて配慮する言い方はくすぐったいけれど、嬉しい。数日前とはまるで違うわ。そのキッカケは離縁から始まったのだと思うと少し複雑だけれど、私も限界まで我慢し過ぎていた。  政略結婚かつ貴族社会では好きでなくとも家との繋がりを結ぶため、愛のない結婚だってよくある。よくあること。そう割り切って、ウエイトを恋愛ではなく趣味や領地運営に傾けて、ドミニク様と向き合うのをいつの間にか諦めてしまったわ。 「私、いい妻キャンペーンは終了しましたの」 「フランカ……それは」  顔を青ざめるドミニク様に「ああ、言葉が足りなかった」と苦笑する。 「これから意見をたくさん言いますし、自分で納得しなければを旦那様と何度でも話し合いをして、結論を出していくと決めたのです」 「私を嫌になったとか、妻を辞めると言うのではなく?」 「ええ、『仕事だから』とか『忙しいから』を理由にドミニク様への言葉をそこで終わらせず、折り合いをつけていこうと思ったのです」  ドミニク様は「ああ」と、頬にキスを落とす。次は瞼の上、鼻に額、たくさんキスをするのは、彼なりの思い──なのかしら? 「フランカ、愛している。今日も一緒に夜を過ごしてもいいだろうか」 「!?」  んー、口下手でもなかった。ものすごく情熱的だったわ。そして言い方!  単に昨日から添い寝しているだけなのに!  白い結婚三年目を迎えるためにも、一線を越えないことをドミニク様には伝えていた。無理矢理ことにおよんだら、外聞も関係なくどんな手を使っても、離縁あるいは姿を消すと言ったら、誓約書にサインしてくれたのだ。私の本気度がわかって嬉しいわ。  私だって今は……ドミニク様と離れたくはない。でも夢は諦めたくないの。我儘な妻でごめんなさい。
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