離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

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離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

「旦那様。お話をしてもよろしいでしょうか?」 「ああ」  いつもの代わり映えのしない毎日。  会話はするけれど、目が合うことは殆どない。無愛想な夫は仕事が忙しく、常に書類に目を通しながら片手で摘まめるような軽食ばかりを口にする。味わって食べることなど一切しない。常に無駄を省いた秒単位で生きているような人。  王国財務総括大臣、それが私の夫ドミニク・オーケシュトレーム様。今年で二十六歳になるのだけれど、貫禄がすでに二十代とは思えない。一睨みで国王様も震え上がるという財務総括の鬼。悪魔。冷血人間などと言われているけれど、それは屋敷でも同じだった。 「以前からお話ししていたお菓子専門店の事業なのですが」 「ダメだ」 「ま、まだ何も」 「君が珍しい菓子を考えるのはいい。事業の展開も認める。──だが公爵夫人自ら菓子を作るというのはダメだ。屋敷内で作るのなら構わないし、お茶会で提供するまでなら妥協もしよう。だが君自身が作った物を売り出すのだけは許可できない」 「──っ」  眉一つ動かさずに淡々と告げる。確かに公爵夫人らしからぬ提案かもしれないが、パティシエールはずっと昔からの夢で、前世では独立を目指して資金を集めている途中で過労死した。  転生したら伯爵令嬢として育ったものの、両親は菓子作りに肯定的だったのでパティシエールになるのも応援してくれた。でも──王命による婚約が取り決められて、私は公爵夫人になるしかなかった。  貴族としての義務として割り切った。  菓子作りができるのなら、と。  女主人としての仕事に手を抜いたことはなかった。貴族として、公爵夫人として責務をこなして──。そうやって愛のない白い結婚も、今年で三年目に入る。 「……ではどうあっても旦那様は、私がパティシエールになるのは反対なさるのですね」 「ああ」  いつもと変わらない言葉の応酬。  何度、頼んでも下りなかった許可に、私は目を伏せた。妥協して、折衷案を見せてくれるのなら応じるつもりだった──でも、答えは変わらなかったわね。公爵夫人として何不自由のない暮らしをさせて貰った。そんな身分でありながら、菓子作りなど取るに足らない道楽だと言いたいのでしょう。でも、私にとって菓子作りが生きる楽しみなの。  そのためなら──。  感情的な衝動を何とか堪えて、小さく溜息をこぼす。 「わかりました」 「……そうか」  旦那様は私を一瞥することなくカップを手に取り珈琲を口にする。 「では三年目の結婚記念日──()()()()()()()()()()()()()()()()()()」 「……は」 「七日後であれば白い結婚として成立しますし、問題ありませんでしょう」 「………」
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