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王族血筋の公爵閣下が主催する舞踏会が王都で開かれ、そこにフランツ様と私が招待される事になった。
以前のフランツ様は、中央の貴族とは関わりを持たず自分の領地から出る事はほとんど無かったらしい。けれど王族からの招待だけは、嫌々でも参加していたとハンスが教えてくれた。
私はダンスをした事がなく、フランツ様にはダンスの記憶が残っていない。そんな状況で、急遽二人で特訓する事になった。
私と違いフランツ様は覚えが早く、堂々とした立ち姿が凛々しく目を奪われてしまう。
「私が君をリードするから大丈夫だ」
フランツ様の心強い言葉に助けられ、私はどうにか初歩のステップをマスターした。
国王の城の近くに建てられた宮殿で舞踏会が開催される。
到着するとすぐに、ホールの上階にある客室に案内された。そこには婦人用の衣装室も併設され、執事・従者・侍女の控える小室もある。
「ニーナ、中庭を眺めて休憩しようか」
フランツ様のエスコートで、宮殿の中庭を歩く。そこには彫刻の施された丸く大きな噴水があった。
フランツ様の腕にそっと手を添えて、半歩後ろを歩く。しばらくするとフランツ様が少し屈んで、内緒話でもするように私に小声で耳打ちした。
「人格が変わり過ぎていると周りに突っ込まれるのは面倒だ。私は冷たい雰囲気を醸し出すけれど、機嫌が悪い訳でも君に怒っている訳でもないから」
私が不安にならなくてもいいように、教えて下さったのだ。フランツ様の優しさに時めきを覚えながら私は頷いた。
二人でゆったりと歩いていると、バラ園があるのが目に入る。バラを眺めてみたいとフランツ様にお願いしてみようかと顔を見上げると、精一杯意識的に無表情をキープしているフランツ様に気付き、私は思わず「ふふ」と声を出して笑ってしまった。
「ニーナ、私の努力を笑ったな」
フランツ様は、釣られて笑いそうになるのを必死に堪えている。時折、頬が小さく震えていた。
「申し訳ありません。けれどフランツ様、舞踏会は夕刻からですよ」
「確かに先が長いな。とりあえず一旦、私は顔面の休息をとるよ」
そう言ってフランツ様がくしゃりと笑う。顔面の休息という言葉があまりにも聞き慣れず、私はまた堪えきれずに笑い出した。
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