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フランツ様と話しているだけで、こんなにも胸の中が幸せとドキドキで埋め尽くされていく。
「いい笑顔だな」
「え?」
「私を笑った、その顔だよ」
フランツ様の指先が、そっと私の頬を撫でた。
「ニーナ。君はこの先、もっと幸せになる。幸せな未来が君には待っている。それを、俺は知っているから」
それは私の幸せを約束する言葉であるのに、その未来の中にフランツ様は含まれていないような言い回しに違和感を覚えた。
私はあなた様の側で笑っていたい。
「フランツ様のお側で……」
そんな言葉を遮るように、後方から声が響いた。
「お義姉様?」
ビクリッと肩が揺れる。
振り返ると、紳士にエスコートされた義妹のアラベラがこちらへと近づいてくるのが見えた。
アラベラは私の様子を舐めるように見つめて、怪訝な表情を浮かべる。酷い扱いを受けているであろう私が、肌触りの滑らかな衣装や輝く宝飾品を身につけている姿に、悔しそうに口を引き結んでいた。
あの屋敷にいた頃の私は感情を失ったお人形のようだったけれど、フランツ様やモニカ達のお陰で私は少しずつ心を取り戻してきた。それと同時に恐怖や悲しみの感情も蘇っていたのか、アラベラを見た途端に私の体が小刻みに震え出す。
その動揺を悟ったように、フランツ様が強く私の肩を抱いた。
「行こうか」
支えられて歩き出す。
すれ違う瞬間に、私にだけ聞こえるような声でアラベラが耳打ちした。
「マナーのなっていないお義姉様。どうぞ、恥をかかないように気をつけて」
アラベラの真っ赤な唇が、片側の口端だけ吊り上げた笑みを浮かべる。私の脳裏に、屋敷で受けた酷い仕打ちが蘇った。
『お母様、見て! お義姉様ったら家畜のようだわ』
上手く息を吸う事が出来ずに、どんどん呼吸が乱れていく。無意識のように零れ落ちる涙を、私は止める事が出来なかった。
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