第5話:辺境伯夫人として①

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第5話:辺境伯夫人として①

「ニーナ様! どうされたのですか!」  フランツ様に支えられて宮殿の客室へ戻ってくると、それを見たモニカが駆け寄ってきた。私をソファーへ座らせてくれたフランツ様が、モニカの問いに答えてくれる。その間もずっと、私は小刻みな震えが止まらなくなっていた。 「中庭で、彼女の義妹と遭遇したんだ。実家でニーナは、義母と義妹に虐げられていた」 「そうだったのですね」  やはりフランツ様は、私が虐げられていた事を知っていた。  では、あのアラベラの命令も……。 「あの仕打ちの内容も、……フランツ様は、ご存じなのですかっ」  私は取り乱し、両手で顔を覆う。  誰かに、何よりフランツ様に、あの屋敷での仕打ちの内容を知られたくなかった。 「私は、君が虐げられていたという事実しか知らない。君が何をされて、こんなにも怯えているのか何も知らないよ」 「私には、フランツ様の妻でいる資格はありません。私では、フランツ様にご迷惑をっ……」  顔を伏せて泣く私の耳元で、フランツ様が優しく語り掛ける。 「ニーナ。君は美しい心と眩しい笑顔を持つ素敵な女性だ」  その声に導かれるように顔を上げると、真っ直ぐな碧い瞳と視線が重なった。哀れみでも情けでもない。心からの言葉をくれたのだと、その真摯な視線で伝わる。 「それでも君が不安なら、舞踏会は欠席しよう。以前の私は傍若無人、突然気が変わったと言っても、周りは私なら言い出し兼ねないと納得するだろう。だから何も心配いらない。今すぐここから帰ってもいい」  フランツ様が私を抱き締める。 「だけど、ニーナ。忘れないでいて欲しい。この先、君が君自身を信じられなくなる時は……。どうか、私の言葉を信じていて欲しい。そして君が、素敵な女性であるという誇りを、ちゃんと思い出して欲しいんだ」  フランツ様の言葉が、私の心に勇気をくれる。  私は私を縛る自分の過去と決別する為、知られる事が怖いと思っていたアラベラによる仕打ちを自ら話した。
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