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第6話:辺境伯夫人として②
フランツ様のエスコートでフロアに入る。ダンスホールは天井に大きなシャンデリアが輝き、楽団による弦楽器が奏でる音楽が優雅に流れていた。
このような社交の場が初めてで、緊張から顔が強張ってしまう。
私はフランツ様がくれた先程の言葉を思い出し、心を強く持って前を向き笑みを浮かべた。
「ニーナ、みんな君の事を褒めているよ。私は酷い言われようだけどね」
フランツ様の言葉に、意識を周りの雑談へと向ける。
「まぁ、なんて美しい」
「氷の死神の新しい夫人は、ヴィントフェンスター家のご令嬢らしいぞ」
「次女のアラベラ嬢しか、社交の場でお見かけした事がなかったけれど」
「長女のニーナ嬢は、こんなにお美しい方だったのね」
「あの冷酷な死神を、虜にしてしまったらしい」
「妻を痛ぶっては離縁を繰り返していた死神が、夫人を同席させるなんて初めてですものね」
噂の的になっており、羞恥で頬が熱くなり思わず俯いてしまいそうになる私に、フランツ様がそっと声をかけてくれる。
「ニーナ、前を向いて」
「はい!」
フランツ様に手を引かれ、ホールの中央付近へと移動する。
ゆったりと流れる調べに合わせ、フランツ様が踏み出した。それに合わせて私も、特訓したステップを踏む。
縦にスッと一歩、次は足を横へ、足を閉じ、また縦に。練習の成果か、うまくメロディに乗れているような気がする。緊張も少しずつ解けて、私はフランツ様のリードに身を委ねてフロアを舞った。
フランツ様は、氷の死神の呼び名通りに、顔に無表情を貼り付けている。普段、どれだけ優しい笑顔をして下さる人なのか知っている私は、やはり無理やり無表情を保つその姿にクスリと笑ってしまう。そんな私の表情を見たフランツ様が、同じように笑みを浮かべた。
その瞬間、フロアからざわめきが起こる。
「死神があのような笑みを浮かべたぞ」
「知らなかったわ、笑顔があんなに素敵だなんて」
「後でお声を掛けても平気かしら」
フランツ様は急いで表情を引き締め、スンッとした顔のまま私に問い掛けた。
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