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第1話:政略結婚
「お義姉様に死神から求婚状が届いたわよ!」
ベッドの上で膝を抱きうずくまっていた私の部屋に、義妹のアラベラが声を弾ませながら入ってきた。
私がいるこの部屋の扉には、内側からは開ける事のできない鍵がついている。
十三歳で母が亡くなり、その二年後に伯爵家の爵位を持つ父が再婚した。
義母と義妹が屋敷に来てしばらくすると父は急に病気がちになり、私が十八歳を迎える頃には一日の大半を横になって過ごす程になっていた。
いつしかこの家の実権は義母と義妹が握るようになり、私は掃除と洗濯以外で部屋から出る事を禁じられた生活を強いられるようになる。
私についてくれていた侍女や家庭教師は勿論クビにされ、貴族令嬢として社交の場に出る事もなく、義妹により私は心を病んで部屋に引きこもっていると言われていた。
王都に程近い特定地域を統治しているヴィントフェンスター家は、小高い丘の上に屋敷があり、いつも穏やかな風が吹いている。
鍵を掛け閉じ込められた部屋の中での唯一の救いは、そこに窓があり自然の光と風を感じられる事だった。
「お義姉様ったら、あの死神に求婚されるなんて! この先、どんな仕打ちを受けるのかしらね。楽しみで仕方がないわ」
そんなアラベラの言葉で、胸の奥にチクリと棘が刺さるような痛みが走った。
こんな感覚は、いつぶりだろう。
もう随分と前に感情を捨てて以来、アラベラのどんな言葉にも心が揺らぐ事はなくなっていた。
傷付かなくて済むように、悲しまなくて済むように、悔しいと思わないでいいように、少しの期待さえ持たないように……。
笑顔を捨て、喜びを捨て、悲しみを捨て、怒りを捨てた。
もう空っぽだと思っていた自分の心に、まだ感情のカケラが残っていたのだと、胸に走った痛みで私はそれを知ったのだった。
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