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第7話:秘密①
「私の妻に何をする気だ?」
私を抱き寄せたフランツ様の言葉に、アラベラが急いで振り上げた手を下ろし、取り繕うように笑みを浮かべた。
「大きな声を出してしまい申し訳ありません。ただ私は、アイスブルク辺境伯の事が心配なのです。義姉のニーナは、醜い部分を持つ女であるのにそれを隠し、貴方様を騙している。私はずっと、義妹として心を痛めておりました」
アラベラが瞳を潤ませ、フランツ様を見つめる。
しかしフランツ様は、鋭い視線を向けて言い放った。
「私が何も知らないとでも思っているのか。この場から立ち去り、今後一切、ニーナに関わるな」
冷たい一言に、アラベラが目を見開く。
言われた言葉に対して、驚きから徐々に怒りへと表情が変わり、唇を噛み締めたアラベラが激昂する。
「わ、私を蔑ろにするなんて……許せない! 辺境伯なんて田舎貴族が偉そうにっ! いくら魔力が使えるからと言って、伯爵令嬢の私に向かってそんな口を聞くなんて許さないわっ!」
アラベラの一際大きな声で、楽団の演奏までもが中断する。普段から、アラベラは気に入らない事に対して簡単に激昂する性格だった。この様子を見て、中庭でアラベラをエスコートしていた伯爵令息も、関わりたくないとでも言うように遠ざかって行く。
「無知を晒すのも、そこまでにした方がいい」
今まで聞いた事のない程の冷たいフランツ様の声が、癇癪を起こしているアラベラに現実を告げた。
「辺境伯の爵位は、伯爵以上だ」
それでもアラベラは、信じられないとばかりに叫ぶ。
「嘘を言わないで! 五爵位にも含まれていない地方貴族が!」
私は、かつて家庭教師に習った言葉を思い浮かべる。父も母も健在だった十三歳までは、教養教育を受けさせてもらっていた。
貴族の爵位は大きく分けて五つ。
上から順に、公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵となる。
辺境伯はこの五爵位には含まれていない特殊な「伯」で、公的には伯爵以上侯爵以下の地位とされている。更には、中央の力の届かない辺境管轄区内において、事実上は公爵以上の権限を有している事が多い。
国防の要であるフランツ様も、アイスブルク領土内においては、国王代理者権限まで与えられているとハンスに聞いた事があった。
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