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これまでにフランツ様を見て感じていた疑問が、その話を聞いて腑に落ちたような気がした。
梯子やロープを使った動きの速さ。軽やかな身のこなし。何より、周りの者を救いたいと願うフランツ様の信念は、本来のご職業に繋がるものだったのだと私は理解する。
「しばらくして俺は、ようやくある事に気づく」
「あること?」
「そう。ここが、姪っ子が好きだったあの本の世界だと」
「え……?」
ここが物語の世界だとすれば、私は、その登場人物という事になる。
私や、お母様やお父様も……。作られたお話の中を、生きていたの……?
戸惑いで言葉を失くした私を気遣い、フランツ様が問いかける。
「少し、休憩しようか?」
「平気です。聞かせて下さい!」
私はフランツ様の目を見つめる。フランツ様は「分かった」と頷いて、また言葉を続けた。
「姪っ子はいつも俺に、『妹にイジワルされても、ニーナちゃんは最後には幸せになるの!』そう言って、嬉しそうに本を見せてくれていたんだ」
見知らぬ誰かが自分の幸せを喜んでくれている。それは不思議な事だったけれど、なんだか嬉しい気持ちになる。
「俺は姪っ子と話を合わせる為に、その本を読んだ。児童書だから、君が実際に受けていた仕打ちが詳細に描写されていた訳ではなくて、『ニーナは新しい母と妹に、いじめられていた』その程度の文章表現だった。だから君が虐げられている事は知っていても、その内容までは知らなかったんだ」
ずっと、フランツ様が私について、知るはずのない事までご存知なのが気になっていた。
それは、こういう事だったのかと納得する。
「その児童書は、それからどのような物語を描くのですか?」
私の問いに一度大きく息を吐いてから、フランツ様が私を見つめる。その強い視線に、この先の展開が何か大きな意味を持つに違いないと感じた。
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