第9話:最愛の嘘

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「ニーナ様! ここから逃げるように指示が出ています」  モニカが私に駆け寄る。 「私はここでフランツ様の戻りを待ちます。だから、あなたは他の者と一緒に逃げて下さい」 「そんなっ。ニーナ様を置いては行けません」 「それでいいの! モニカ、行って下さい」  私とモニカの元に、今度はハンスが駆けつけた。 「ニーナ様、私共と一緒にお逃げください」 「ハンス。私はいいので、あなたはモニカを連れて……」  その先の言葉を遮るように、ハンスが強く私の手首を掴んだ。 「ハンス、やめて! 私はフランツ様にここで待つと約束を、」 「ニーナ様っ!」  初めて聞くハンスの大声に、私の体がビクリと震えた。 「これは、フランツ様のです」 「え?」 「出て行かれる直前、無理矢理にでも連れ出して欲しいと私に願われました」  ハンスが、今度は諭すような声で語る。 「冷静に聞いて下さい、ニーナ様。周辺国の誰もが欲しいと手を伸ばす豊かな風土のこの国は、フランツ様の魔力によって守られてきました。今は、その形勢が逆転しているのです。敵国に魔力使いがいる。南東に位置する小国は、数刻と持たずに炎に落ちたと情報が入りました。国の最前線となる国境から程近いこの城が、落とされるのも時間の問題です」 「それは……最前線に立つ者が、すぐに……全滅すると、言うこと、ですか」  呼吸が乱れ、上手く話せない。  ハンスはその問いには答えなかったけれど、沈黙が答えなのだとすぐに分かった。 『必ず戻るよ』  その笑顔が瞼の裏に蘇る。 「フランツ様は戻るとっ……私に、必ず戻ると!」  私の叫びに、ハンスの目から涙がこぼれ落ちるのが見えた。 「──君に向けた最期の言葉が『嘘』でごめん。それでも、君への愛の告白は本物だから。それが、私がフランツ様より預かった伝言です」  それは、フランツ様が私についた初めての嘘だった。フランツ様はあの時、もう事態を把握されていて、死を覚悟で出て行かれたのだ。  私は力なくその場に崩れ落ちる。   「失礼いたします。無礼をお許し下さい」  その言葉と同時に、私はハンスに抱えられてこの城を連れ出されたのだった。
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