第10話:氷の紋章

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第10話:氷の紋章

 城の外へ出ると、風に紛れて黒煙の臭いが鼻をついた。  私は国境の方角を見つめる。 「ニーナ様、お早く馬車の中へ」  モニカに支えられて馬車のステップに足を掛けた時、伝令の馬に乗った騎士が大きな叫び声を上げているのが聞こえた。 「フランツ様の氷の壁が、砦を死守されましたっ! ダイヤモンドヴァントが、我らに勝利を! しかしフランツ様は、倒れられたまま目を覚ましていない状況です!」  その声に、私はドレスの裾をたくし上げて騎士の元まで駆け出す。 「フランツ様は、倒れられたフランツ様は、今どこに……」 「他の者がお体を抱えて、慎重にこちらへ向かっています」  私はまた国境の方へと走り出した。  けれどすぐにドレスの裾が足に引っ掛かり転んでしまう。それでも呼吸を整えて、私は前を向いて立ち上がる。その視線の先に、国境の大きな正門の向こうで、こちらへと近づく騎馬隊により舞い上がった砂塵が見えた。  城で働く者達から、一気に歓声が上がる。  次第に大量の馬が駆ける足音が、地響きのようにこちらへ近づいて来る。  私は飛び出してしまいそうなほど脈打つ心臓に手を当てて、フランツ様のお姿を見付けようと目を凝らした。馬の首元にフランツ様のお体を固定して、後ろから支えて走る騎士の姿が見えた瞬間、視界があふれる涙で滲んでいく。 「フランツ様っ!」  馬軍が鳴らす足音で、その声が届くはずもないのに、私はずっとその名を叫び続けていた。
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