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フランツ様の自室で、医師により脈にも呼吸にも異常はないとの診断を聞いて、私は安堵して床に崩れ落ちた。
モニカやハンスに笑われてしまうだろうかと振り返ると、城の者がみんなフランツ様のご無事に息を吐き、私と同じように座り込んでいる。
フランツ様のお人柄に、誰もがもう、敬意の念を抱いていた。
そして私は気づく……。
安堵した途端、気づきたくもない一つの事実に。
『フランツ様の氷の壁が、砦を死守されましたっ! ダイヤモンドヴァントが、我らに勝利を!』
フランツ様は、再び魔力を取り戻したのだ。
『恐らく俺は……どこかで非道なあいつに戻るのかもしれない』
そんなフランツ様の言葉が私の心を刺す。
次に瞳を開ける時、その目はもう、凍てついた眼差しに戻っているのかもしれない。私は眠るフランツ様のお側で、それでもフランツ様の目覚めを祈った。
「お慕いしています。フランツ様を、お慕い申し上げております」
言葉と同時に、ゆっくりと涙が頬をつたい落ちていく。
私はフランツ様の手を握ろうとその手に視線を向ける、その左手の甲に、白いハンカチが巻かれているのが見えた。
「これは……」
その白い生地には見覚えがある。
それは私が氷の紋章の刺繍をして、フランツ様に贈ったハンカチだった。
それが、フランツ様の手を持ち上げた拍子にスルリと解け落ちていく。
ヒラヒラと舞いながら床へと落ちたハンカチは、柄の無いただの白いハンカチとなっていたのだ。ただそこに、しっかりと氷の結晶の縫い跡だけ残して……。
「まさかっ」
私はハンカチから視線をフランツ様の手の甲へと戻す。
そこには、私の刺繍と同じ大きさの、碧く輝く鮮やかな氷の紋章が刻まれていた。
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