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「ニーナ様。ハンスでございます。少し、宜しいでしょうか」
「はい、どうぞ」
部屋の中へ足を進めたハンスが穏やかに微笑み、用件を話し出す。
「フランツ様が夕食の前に、ニーナ様を城内の図書館に案内したいとの事。夕刻にこちらのお部屋まで迎えにいらっしゃいます」
「フランツ様が、こちらまで?」
「はい。それでは、私はこれで」
ハンスが部屋を後にする。その時も、入って来た時と同様に優しい笑みを浮かべていた。ハンスもモニカも、私に話かける前に笑みを見せてくれる。人に対して怯えを持っていた私は、そんな二人の対応がとても嬉しかった。
「皆さん、優しい笑顔で安心します。モニカもありがとう」
そう言って彼女を見る。
「本当は内緒なのですが」と前置きしながら、モニカが話し出した。
「これは、フランツ様のご提案なんですよ」
「え?」
「ニーナ様が少しでも不安な思いをしなくてすむようにと」
そんな事まで、考えて下さっていたなんて……。
その心遣いに胸が熱くなる。
「さあ。フランツ様が迎えにいらっしゃる前に、こちらのドレスにお着替えを」
モニカが手のひらで示した先には、スカートの部分が二重になり内側にレーススカートが重なった美しいドレスがあった。正面のみ外側のスカートの裾が腰の位置まで寄せ上げてあり、滑らかな折ひだができている。
「私が……これを着て、いいのですか」
もう随分と長くドレスなど着ていない。父が再婚して病に臥せってから、アラベラに何もかも取り上げられてしまった。
衣装も、大好きだった本も、そして笑顔も……。
「お似合いですよ、ニーナ様」
嬉しそうに手を叩くモニカの横で、私は大きな感謝に涙を浮かべる事しかできずにいた。
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