第2話:見えない本意

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 *  フランツ様に案内して頂いた図書館には、沢山の本棚が並んでいる。 「この辺りだ」  窓辺の一角を、フランツ様が指差した。 「君は、物語を読むのが好きなのだろ?」 「は、はい」 「ここから選んで、部屋に持っていくといい」 「……っ……」  あまりの嬉しさに、上手く言葉が出てこなかった。  ドレスのお礼や、私を思った優しい配慮、本当はもっと沢山のお礼を伝えたいと思っているのに……。 「私はあちらを見ている」  遠ざかるフランツ様の背中に向かって、私は今度こそと思って呟く。 「ありがとうございます」    それは小さな声だったけれど、振り返ったフランツ様が嬉しそうに頷くのが見えた。端正な顔立ちから受ける冷ややかな印象が、笑顔を浮かべた瞬間に柔らかく解けていく。途端に大きく跳ねた自分の鼓動に驚いて、私は焦って碧い瞳から本棚へと視線を逸らした。  それからは、夢中になって本を選んだ。  ふと見上げた高い位置に、母が好きだった物語を見つける。  手を伸ばし背伸びをした途端に、体がグラリとふらついた。久し振りのドレスで転びそうになった瞬間、逞しい腕が私の体を受け止める。 「フ、フランツ様……! 申し訳ありま……」 「これか?」  フランツ様は真後ろから片手で私の体を抱き、もう一方の手を伸ばして本をとる。緊張で固まる私からそっと離れて、その本をこちらに差し出した。 「高い所のものは私がとる。他にはどれがいい?」  問われても、ドキドキして上手く言葉が出ずに私はうつむく。  黙ったまま固まっている私の顔を覗き込むように、フランツ様が膝を曲げてこちらを見た。 「君は私の妻だ。これからは遠慮などしなくていい。ただ、立場は妻であるが……。私は君を、妹のような存在だと思っている」  突然の言葉に驚き、私は顔を跳ね上げる。 「夜、君を私の自室に招く事はないので安心するといい」  それはつまり、夫婦としての営みがないという事になる。  フランツ様の優しさは、妻への愛情ではなく、不憫で可哀想な妹に与えられたご慈悲なのだろうか。それなら──。 「どうして私を、妻に……」  溢れ落ちた私の声に、フランツ様が真意の読めない表情で呟いた。 「ただ、君を救いたかった」  その言葉で、振り出しに戻るように、最初に浮かんだ疑問が脳裏を過ぎる。  記憶を失くし全てを忘れたはずのフランツ様が、どうして私が実家で虐げられていた事を知っているのだろう。ご自身の事でさえ、何一つ覚えていない状況だというのに……。  募る疑問と、胸の奥に痛みを感じて、私はぎゅっと本を抱える手に力を込めたのだった。
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