第3話

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「私、だましたりしません。誠実さが売りです」 「世も末だ……」  男はじっとオリヴィアを見た。そして彼女の右手を見る。そこは赤く腫れていた。 「何で困ってるんだ?」 「はい?」 「金に困ってこの仕事をしているんだろう?」 「ええ。今月中にあと6カードゥどうしても必要で」 「きれいな服を着ている。家は金持ちだろう?」 「親に内緒で必要なんです」  母にこのことは絶対秘密なのだ。  男は再び天を仰ぎ、それからため息をついた。 「嬢ちゃん」 「はい」 「乗りかかった船だ。俺が払ってやるよ」 「ただで貰うわけには」 「右手、怪我させてしまった。その治療費として俺は10カードゥを渡す。いいな?」 「いいんですか」  金を渡される。しかし、オリヴィアはこの金を治療費としては使わないだろう。それは男もわかっている。大人の嘘だ。 「ほら、家に帰って真っ当に生きな」 「道に外れたことはありません!」  オリヴィアはそう言って、手首を抑えながらその場から駆けた。  男はその後姿をずっと見ていた。 *
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