6人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
顔には、愛しい恋人との逢瀬が待ちきれない、といった風情の表情をのせる。
「お待たせしました」
「ああ、オリヴィア。今日もかわいいね」
今日のセオドアは花束を持っていた。春らしく、かわいらしいピンク色の花が集められた花束だ。彼はそれをオリヴィアに差し出す。彼は甘い笑顔を浮かべている。
オリヴィアは口角がひきつりそうになるのを懸命に堪えて、それを受け取った。花まつりの日は女性が男性から花を贈られる風習があるのだ。
駄目押し、とばかりに、彼は花束から一本の花を抜くと、それをオリヴィアの髪に飾った。
母はオリヴィアたちの仲睦まじい様子に涙を浮かべて喜んでいる。
オリヴィアは笑った。
「ありがとうございます。セオドア様。それでは、お母さま、行ってまいります」
「気を付けて。せっかくのお祭りですもの。楽しんでいらっしゃい」
「はい」
馬車に乗り込んだ瞬間、オリヴィアたちはどちらもそれまでかぶっていた仮面を脱ぐ。
ようするに、セオドアは甘い笑顔から疲れ切った顔に、オリヴィアは恋人との逢瀬に胸をときめかせる乙女の表情から無表情に、それぞれ変わるのだ。
馬車はゆっくりと進みだす。
最初のコメントを投稿しよう!