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痛いくらいの沈黙がオリヴィアたちの間に落ちて、車軸がたてるぎしぎしという音だけが響いている。
馬車の窓の外は春らしく、小鳥が飛び、花が咲き誇っていた。
オリヴィアはこれでも婚約者なのだから、と思って一応言葉をかける。
「ずいぶん早く来られましたね」
「仕事はさっさと終わらせるに限る」
彼の「仕事」という言葉に複雑な気持ちを抱いていた時期もあったが、もはやこの関係が始まって1年。オリヴィアの中の乙女は死んでしまった。
彼が尋ねる。
「金は?」
「ここに」
オリヴィアはカバンから封筒を取り出し、彼に渡した。中には5カードゥが入っている。オリヴィアの月の小遣いの半分である。
彼は中身を確認した後、さらに言った。
「足りないぞ」
「え?」
「花束の代金だ」
さきほど渡された花束の代金の話をしているらしい。
「……ああ」
オリヴィアは肩を落とす。ごうつくばりの商人であっても、恋人に花を贈る日の花束代金を婚約者に請求などしないだろう。
しかし、オリヴィアは財布を開く。
「おいくらですか」
「1カードゥ」
「高すぎません?」
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