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第9話
最後の抵抗として名前だけ名乗ったというのに、一瞬で家がばれた。
「伯爵家のドラ息子と婚約した令嬢じゃないか……」というつぶやきまで聞こえる。
オリヴィア自身は社交界に顔を出さない、出しても壁の花というつつましい生活を送っているというのに、セオドアのせいでオリヴィアの名前まで広まってしまっているのだ。
どうしようとオリヴィアが目を泳がせまくっていると、アシャーは自身の親指につけていた指輪を外してオリヴィアの鼻先につきつけた。
そして言う。
「お前、いくらなんでも質に流すのが早すぎないか?」
「……?」
彼の手には金の指輪があった。
それはドラゴンを模した精緻な造形である。指の一本一本、鱗の一枚一枚まで意匠が凝らされていて、ドラゴンの目に象嵌された石はまばゆい光を放つ。
オリヴィアはそれに見覚えがあった。
「あれ? それ。貰った次の日には換金したのに……」
「質に流れていたのを見つけた俺の部下が俺の手元に戻してくれた……騎士団長の証だ」
「へえ」
そんな大事なものだったのか。オリヴィアは気まずさでさらに目を泳がせる。
アシャーは問いただす。
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