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もう慣れてしまっているが、それでも面倒は面倒だ。
いっそ、このまま体調不良ということにして帰ろうかな。
そんなことをとりとめもなく考えていたら、アシャーが口を開いた。
「俺は、誠意のつもりで指輪を渡したんだ」
「せいい」
「あんたに申し訳ないことをしたと思って」
アシャーの眉尻が下がる。
オリヴィアは一拍ののち、彼が言わんとすることを理解した。
「あの! その件ですが!」
勢いよく手をあげ、オリヴィアは力強く説明する。
「私たち! ほんとうに! なにもありませんでしたよ! あなたは酔っていましたし……起こそうとして水をかけて、それで風邪をひくとおもってシャツを脱がせただけです! 誓ってもいいです!」
ここだけは理解しておいてもらわなくてはならないだろう。
オリヴィアは私娼のまねごとをしただけで、実際にはいたしていないのだ。
オリヴィアの言葉を聞いて、アシャーは低く言った。
「じゃあ何か。あんたは俺から金を騙し取ったことになるな」
「そうなりますね」
オリヴィアはあっけらかんと答える。私娼か詐欺師なら、まだ詐欺師の方が、男爵令嬢としてはましな悪評だろう。
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