6人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
第10話
「言われないです。しっかり者だって言われます」
「そうか……」
近くから、衛兵の声が聞こえる。きっと、アシャーを探しに来たのだろう。
この密会もいよいよ終わりの時が近い。
オリヴィアは一歩下がった。
暗い闇の中で、男の傍に立っているのはまずいと思ったのだ。
しかし、距離をとったオリヴィアの腕をまた男は引いた。
「ちょっと……」
抗議の声にかぶせて、アシャーが問うた。
「それで、お前はどうなんだ」
「どう、といいますと」
「その婚約者のことが好きなのか?」
「え。大嫌いですけど」
アシャーは笑った。呆れたような、珍獣を見るような、それでいて、面白がるような。
「なら、お前はもう黙っていろ」
*
その後、オリヴィアの世界は目まぐるしく変わっていった。
アシャーはパーティに戻ると、国王に向かってこう言ったのだ。
「東部紛争を沈めた褒賞として、男爵令嬢オリヴィア・グランヴィルとの結婚の許可をいただきたい」
そのたった一言で、オリヴィアの世界は変わった。
最初のコメントを投稿しよう!