6人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
第1話
窓の向こうに見慣れた馬車が見えたので、オリヴィアは廊下に出てカーテンの裏に隠れ、玄関ホールに聞き耳を立てた。そのうち、馬車から降りたオリヴィアの婚約者である伯爵令息セオドア・ダウンゼンドが入ってくるはずだ。
予想通り、来客を告げるベルと、使用人の足音の後、玲瓏な男の声が聞こえる。
「お迎えに参りました」
セオドアの声である。ここからは見えないが、彼は金髪と明るい水色の瞳、そして令嬢たちの心一瞬で射止める麗しい笑顔を持っている。
母が応対する。
「まあまあ、わざわざありがとうございます。今日は花まつりに?」
「ええ。オリヴィアが行きたいというので」
「ごめんなさいねぇ。わがままを言って。あら? オリヴィアは何をしているのかしら? すぐに呼んできて頂戴」
「いえ、私が勝手に約束の時間よりはやく来てしまったのです。……はやくオリヴィアに会いたくて」
その砂糖菓子のような言葉を、母は感慨深く受け取った。
「オリヴィアをそこまで愛してくださるなんて……娘は幸せ者です」
母の言葉を聞いて、オリヴィアは胸を撫でおろす。
そして、カーテンの裏から出ると、玄関ホールに向かった。
最初のコメントを投稿しよう!