第十話

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第十話

「ごめんだけど、やりすぎたあんたに問題ありよ」  あたしは、そう言って短剣を構える。  鶏はあたしたちを見下ろし睨んでいる。 「コエー!」  鶏は、レーザーを吐いた。  それを、ペシン! とレオンは手で叩き落とした。  しーん……。と洞窟が静まり返る。  今、何をした。 「コエー!」  ペン! 「コエー!」  パシン。 「コエー!」  ペチン。  擬音語とともに地面で消えるレーザー。 「コ、……。こふ」  不発だった。 「効かないなぁ」  レオンは、こきこきと首を鳴らした。 「ビョェェェェ!」  鶏は高く鳴いた。  攻撃のためと言うより、恐怖のために咄嗟に出た声なのだろう。  そりゃあ、恐い。  人間なんてレーザー1発エンドと思ったら、剣ではなく、素手で叩き落とされているのだから。 「ミューミューミュー!」  鶏は、頭から湯気を出し鳴き叫んだ。  レーザービーム、羽ばたき、羽飛ばし。  ぐちゃぐちゃに攻撃される。  パニックを起こしているのか、攻撃は四方八方だ。 「こっちだ」  彼は私の手をひき、攻撃と崩れ落ちる瓦礫をかわしながら進む。  鶏が羽根を閉じた。  ーー今!  あたしが駆けようとした時、両手を掴まれ制される。 「ぅおい!」 「駄目だ。雛がいる」 「はあ?」  彼は言った。 「雛が鶏の足元にいる」  握る力が強くて振りほどけない。 「ちょっと、いくら生きてくためとはいえ、同情できないところまで来てんのよ。  今更手ぶらで帰れない」  彼の影から首だけ出すと、小鳥サイズの雛が2羽、震えながら羽根を広げ、鶏の前で立ちはだかっている。 「可哀想だ」 「死んだ家畜も、廃業した畜産家も、いま被害を受けてる畜産家も可哀想だわ!」 「いったん待ってくれ」  頼む、と頭を下げられる。  仕方ない。  レオンの言葉にあたしは、頷き、短剣をしまう。  レオンは、鶏の方を向いた。 「今後家畜を襲わないのであれば、討伐はしないように働きかける。  どうだ?」  待て待て、もう。  勝手に決めないで。  鶏は静止している。 「いいってことじゃ」 「ピィイイ!」  素早く何かが動いた。 「!」  雛の1匹がいない。  もう1匹の雛が壁を見た。 「蛇だ!」  見れば、天井へと駆け上がろうとする灰色の長い姿。  木の幹くらいの太めの蛇だ。  魔物は他にもいたのだ。 「待ちなさい!」  あたしは、短剣を素早く出して飛び上がる。 「スァアアアア!」  追いつくとは思わなかったのだろう。  蛇は、向きを変える。 「アァアアァ!」  咆哮を上げ私に襲いかかる。 「リア!」 「大丈夫よ!」  それをさっと交わす。  そのまま、宙で反転し、 「でぃあ!」  心臓に短剣を突き立てた。 「クェ」  と蛇は鳴き、一瞬で赤い魔石に変わる。  あたしは、手のひらサイズの石を掴む。  と同時に、雛と動物の骨がバラバラと落ちる。 「よっと」  地面に着地する。  積み重なった骨を見て、レオンは言った。 「この骨の量、犯人は蛇か」 「みたいね。鶏のほうが姿は目立つし」  あたしは頭をかいた。 「あっぶな……。止めてくれてありがとう」 「うん、良かった」  雛を下でキャッチしたレオンは、鶏に返す。 「コ、コエ」  鶏は小さく鳴いた。 「はい、見て」  あたしは、ルーペを取り出し、魔石を見せる。  七条の星が浮かぶ。 「見せてもらったものと同じ」 「でしょ。これで疑いは晴れたわね」  やれやれと息を吐くあたし。 「ああ、すまなかった」  彼は頭を下げた。  上げた顔は、どこか嬉しそうだ。 「いいわ。今回、思いがけず儲かったし。  さ、帰ってご飯よ」  ピーと雛は鳴いて、私の肩に留まると、そっと頭を擦り付けた。
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