第十一話

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第十一話

 洞窟を出ると、キシカワさんがいて、その手には男の姿があった。  縄でぐるぐる巻にされて気絶しているようだ。 「センパイ、暗殺者、捕まえましたぁ」  同僚って言ってなかったっけ? 「ありがとう。  では締め上げて首謀者をはかせてくれ」 「はぁい、拷問はお任せぇ」  ぴっと敬礼する。  通りすがりに睨まれるも、捕まえてくれたことに感謝して、一礼する。 「これで帰りは安心だわ」 「ああ」    これで暗殺者の危難も去った。  中央政府への報告を伝書魔鳩で終え、安心したあたしは、帰り道は早いルートを行こうと川越えを選んだ。  川に差し掛かり、橋を3歩歩いたとき、バキンと音がした。 「へ」  体重で踏み抜いたわけではない。  細工がしてあったのだ。  縄が切れ、橋はあっさり壊れる。  おのれ、油断した。  暗殺者め、1発殴れば良かった。 「リア!」  レオンの手を取る間もなく、真っ逆さまに谷底に落ちる。  ザプンと音がして、頭まで沈む。 「ぐ、く……」  流れが早い。  息を整えることもできず、ゴボゴボと口から空気が漏れる。  まずい!  あたしは泳げないのだ。  んぐぐぐぐ。  水の流れに翻弄されて、浮かび上がれない。  顔を上げるタイミングが掴めない。  お、ぼれ……。  なにか……。  どうしよう。  薄目で探し、捕まるものを探そうとあがくも、岩も樹もないのだ。  息が……。  くるし。  力が抜ける。  もがく力がどんどんと弱くなる。  やばい、視界が暗くなる。  駄目だ。  こんなとこで死んじゃうなんて……。  美味しいものを食べたりないし、まだ行ったことない国もたくさんある。  レオンに食事も奢ってもらってない。  もう少し話しだってしたかった。 「ん?」  口元になにかが押し当てられ、急に息苦しさが軽くなる。 「ぁ、ぅ?」  薄く目を開けると、リオンの姿がぼんやり見える。  助けにきてくれたんだ。  2回、3回と口から空気を流し込まれ、離されないように、ぐっと彼の肩を掴む。 「ーーは」  顔が川から上がり、むせながら外の空気を肺一杯に吸い込む。 「リア」  目がしっかり合うと彼は安堵の表情を浮かべた。 「よかった」  それから、ただ唇を重ねられる。  いまの必要か?  逮捕といい、質問といい、唇を重ねることといい、なんか、なんもかんも突然なんだよな。  薄れていく意識の中であたしはぼんやりそう思ったのだった。
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