第十四話

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第十四話

 闇が深まる時間。  ひとは眠りにつくが、魔物は外で気ままに羽を伸ばす時間である。  それが、先日の事件のせいで外出制限が行われていた。  それが解除された今夜。  ぽつりぽつりと街を魔物が彷徨う。  誰にも見られない時間というのも必要だろう。  空を飛んだり、気ままに踊ったり。  昼では目立つので、このような深夜が都合がいいのだ。  ひとりの魔物が、通りの角を曲がる。 「うぁ! ああ」  急に眩しい光を目に浴び、その場に尻もちをつく。  地面に転がるランプ。 「な、なん! やめろ、だれだ、やめろ!」  何者かが覆いかぶさり、魔物を襲う。  包丁だ。 「やめなさい!」  一部始終を見ていたあたしは、覆いかぶさる何者かに石を投げた。  ごっと音がして、何者かはのけぞる。 「リア、すごい! カッコイイ!」  包丁が地面に音を立てて落ちる。 「覆面め、逮捕する!」  キシカワさんは、素早く両手を押さえ込む。 「マクレガーさんですよね」  キシカワさんが覆面を外すと、マクレガーさんの姿があった。 「なんでわかった?」  彼は、がっくり項垂れた。 「途中で暗殺者に襲われたんですけどね。  ま、あたしが討伐に行ったことを知ってるひとは限られてますし」  彼は、力なく笑う。 「あたしがいるうちに動くなら、今日しかありませんし、外出制限を解くと言ったらすぐ動くかと」  はーとため息を吐いている。 「ヤマカワさんが亡くなったのは、暮れ頃でしょう。  時間めいたものをあなたが口にしたときから、不審に思ってました」 「さすがは、リア! 可愛いだけではなく、聡明だ。惚れ直す!」  ちょっと恥ずかしい。  そしてあたしを睨むキシカワさんの瞳が痛い。 「ああ。帰宅途中を狙ったんだ。いかにも、無差別っぽいから」 「本当に狙っていたのは、この評論家だったんですね」  トカゲ族の魔物は、レオンに支えられ立ち上がる。 「ああそうだよ、決まってる。  こいつのせいで、俺の店は大赤字だ! あと、半年持つかわかんねー。評論家? 何様だよ! ひとの店で商売しやがって!」  互いに睨み合うふたり。 「これ、魔石ハンターが使う金属じゃないか」  レオンは、包丁を袋に入れた。 「商人から買ったのさ。  こうすりゃ商売道具と区別がつかんからなぁ」 「ヤマカワさんはどうして?」  尋ねたレオンにマクレガーさんは、笑った。 「試し切りだよ? ほんとに魔石になるかわからないじゃないか」  あたしは、マクレガーさんを無言でぶん殴った。 「勿体無い、残念ね。  あなたの料理、本当に美味しかったのに」
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