第三話

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第三話

「それで、お亡くなりになったのはいつくらいで?  リアさんは暮れには宿に戻ったと思うのですが」  おずおずとマクレガーさんは尋ねた。  マクレガーさんナイス!   そうだ、アリバイだ。  アリバイがわかれば犯人はあたしでないことがわかる。 「いつかはわからない」  いみな!  テーブルに軽く額を打つ。 「なんせご遺体ならともかく石になってしまわれているので」  それはそうか。 「ただ、ご家族の証言では、いつも仕事から帰ってくる時間に戻って来ず、星がはっきり出る時間になり、外に探しに行ったら、門の前でこの状態で見つかった、と」  彼は、寂しげな様子で続けた。 「瞳の色と同じだから、彼に間違いないと」 「そう。  ちょっとその魔石を見せて」  絶対に犯人でない証拠、見せてやろうじゃない!  彼は、手袋をしてベルトの皮袋から、紙の小袋を出し中味をテーブルに置く。  あたしは、黄金色の魔石に手を合わせて黙祷した。  彼と同様に自分のベルトにつけたポーチから手袋とルーペを出し、テーブルに置かれた石を鑑る。  特殊なルーペで、覗くと石に破線が浮かぶ。  ふむ。  破線の向きがバラバラで均一な線がない。  可哀想に。  これだけ破線の向きが違うというのは、止めを指すまでにメッタ刺しされたようなものだ。  恨みがあるのか、下手人が下手なのか、激しく抵抗したのか、さぞ苦しんでの果てだろう。 「あたしは絶対に犯人じゃない」 「なぜ言い切れる?」 「ルーペを見て。線の向きね」  彼は頷いた。  あたしは、ポケットから、小石くらいの大きさの緑色の魔石を出す。  ルーペで見せる。  破線は、中心から七条の星を描いている。 「違うでしょ」 「それが?」 「魔石は同じように見えても出来方に差異がある。  私が魔石にすると全てこうなるの」 「素晴らしい。これ以上ない証拠だ」  彼はパチパチと手を叩く。  一瞬嬉し気に目を細めた。その賛辞にあたしは胸を張った。  どーだ!  ーーしかし、彼は首を横に振った。 「だが、証明ができない」 「は?」 「この石が君のものでも、魔物が魔石に変わるところを俺は見ていない」  むー、なんて融通の効かない頭の硬い男だ。 「それに、わざと下手に作れば罪を逃れるじゃないか」  あたしは、思わず立ち上がった。 「あんた、あたしを誰だと」  怒りのあまり手が震える。 「S級ライセンサーが、んなことするわけないでしょうが!」  声と息を荒げ睨みつける。  はーはーはー。 「どうやら失言をしたようだ。  すまない」  素直に謝罪されてあたしは、一瞬怯む。 「そうだな」  やや間があって。 「では、それを証明しに行くというのはどうだ?」 「つまり?」 「魔物を倒すのを見せてくれ。  そしたら、納得しよう」  彼は、良い考えだとばかりにひとりで頷く。  ええ! なんで、そんな手間のかかることを。  そもそも犯人を捕まえれば。  いやでも、よそ者のあたしがでばったところで、大した情報を得れるとは思わないし。  ぐぬぬぬぬ。 「断れば?」 「犯人として裁判にかける」  言い切るも、その表情はなんか哀しそうだ。  なーんか変だな。  くるくる忙しそうに表情が変わるが、情緒不安定かなんかか。 「むちゃくちゃじゃん」  言っていることも。  していることも。 「逃げようものなら地の果てまで追う」  人の話をあまり聞かないタイプだ。  恐い。  目が本気だ。  あたしはため息を吐いた。  なんて厄介なやつ。 「わかった。  そのかわり、死んでも自己責任で」 「心配するな。俺は丈夫だ。だてに黒獅子など呼ばれていない」  黒獅子? 随分大仰な通り名だ。  猪突猛進で空振りが多いからとかではなく?  嫌味が浮かんだが、言葉にするのはやめておいた。  彼の情緒不安を煽りそうだったからだ。
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